「地震で崩壊する土地」は地名でわかる!! ~阪神大震災から20年データが語る地名と被害の相関~

・ 渋谷(渋谷区)と四谷(新宿区)
 まず、「渋谷」や「四谷」などに見られる「谷」は、その名の通り谷地形を示しており、かつては川が流れていた土地である。渋谷には宇田川町という地名も残っているが、地盤が弱い場所が多いことをうかがわせる。前述の高橋学氏によると、大地震が起きた時にいちばん危険な場所は、もともと海だったところで、次が谷だという。

・ 浅草と吉原(台東区)
 谷川影英著『地名に隠された[東京津波]』(講談社)によると、「浅草」は浅瀬の川沿いに草が茂っていたという解釈が妥当だろうという。川沿いに草が生えていたということは低湿地であり、地震による大規模な液状化が懸念される。そう、「芦」「葦」「菅」「蒲」「荻」「蓮」「鴨」「鶴」「亀」など水辺に見られる動植物が付く地名も、要注意なのだ。台東区の「吉原」は、かつて「葦原」だったとされており、ヨシ(アシ)が生い茂る低湿地であることを示す。

・ 海抜ゼロメートル以下の地域(江東区、墨田区、葛飾区)
 東京はそれほど大きな津波に襲われることはないと思われがちだが、2011年の東日本大震災の時でも、3メートル近い高さの津波が東京湾に到来していた。全国で海抜ゼロメートル地帯が広い都道府県を挙げると、愛知、佐賀、新潟、東京の順となる。しかも東京の下町には、江東区、墨田区、葛飾区のように海抜がマイナス数メートルとなる土地さえ存在しており、震災時に堤防が決壊すれば、浸水で壊滅的な被害を受けることになる。この地帯は明治時代までは水田が広がっていたところで、ここも本来は、人が住むに適した土地ではなかったのだ。

・ 築地と月島(中央区)
 埋立地も液状化が強く懸念される軟弱地盤である。そして、これも地名で判断できることが多い。中央区の「築地」は、その名の通り人工的に築かれた土地だ。「月島」も本来は「築島」であり、同様に埋立地を意味する。江東区の「砂町」は、かつて砂浜だったと推測され、液状化の起きやすい軟弱地盤であることが疑われる。それに加えて「梅」が付く地名は、植物の梅とは関係なく、もともと「埋立地」の「ウメ」だったというケースが多いので、十分な注意が必要だ。(大阪の梅田もまさにその通りで、低湿地帯で泥土を埋め立てて田畑地を築いたことから命名されたものだ)


■地名の安易な変更が、被害を助長する

 こう見てきたように、地名はその土地の“本当の姿”と“過去の災害史”の貴重なデータベースであるといえる。だが、近年では伝統的な地名が、「桜ヶ丘」「緑ヶ丘」「富士見ヶ丘」「◯◯ニュータウン」といった、歴史的にその土地とまったく関係のない地名に変えられてしまう例も多い。イメージを優先させるため、自治体や土地開発業者らが勝手に命名したものと推測される。

 しかし地名とは、自然災害に関する先人たちの経験と知見が詰まったものであり、さらに後世へと継承していくべきものなのだ。日本民俗学の権威である谷川健一氏も、このような風潮を嘆き「行政の都合による安易な地名変更は許せない」と語っている。いずれにしても、新興住宅地などに住む人は、その土地の明治時代以前の名前を調べてみることも必要だろう。

 最後に、今回紹介した地名による災害リスクの判断は、ひとつの目安にはなるが、全ての地名が必ずしも地質によって決まっているわけではない点も指摘しておく。また、たとえ地質を反映した地名だとしても、自分が住んでいる場所の地盤の良し悪しが正確にわかるわけではない。結局のところ、その土地が本当に危険かどうかは、ピンポイントで地盤調査を専門家に依頼するのが最良の策と言えるだろう。

文=百瀬直也、文=編集部

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