直径25〜40kmの「黒い円盤」が月面を横切った!? 秒速11km・20個超の異常を報告した新プレプリントに批判噴出

画像は「Vigilia」より

 を撮影した映像の中に、直径25〜40kmにも達する真っ黒な円盤が20個以上写り込んでいた——。

 にわかには信じがたい主張が、2026年8月4日に公開された1本のプレプリント(査読前論文)によって再び持ち出された。著者はウクライナ国立科学アカデミー主天文台(MAO NASU)に籍を置く研究者たちだ。

 しかも彼らには、4年前にほぼ同じ主張を掲げ、所属機関からはしごを外された経緯がある。

秒速11kmで月面を横切る「光をほとんど反射しない」巨大構造体

UFO Dynamics on the Moon」と題された論文をまとめたのは、ボリス・ジリャエフ氏、ウラジーミル・ペトゥホフ氏、セルゲイ・ポフワラ氏の3氏。2025年に撮影した月の動画を、高速分光測光という手法で解析したという。

 報告によれば、検出された異常は20個以上。形状は円盤型と、中央に穴の空いたトーラス(ドーナツ)型に大別される。サイズは輝度と月までの距離から逆算した推定値で、直径25〜40km。速度は最大で秒速11kmに達するとされる。

 さらにチームは、これらを2つのタイプに分類している。月面の上空に静止したまま明るさを脈動させる「大気型」と、月面を横切って移動していく「大陸型」だ。いずれも太陽光をほとんど反射せず、漆黒に見える点が共通しているという。

 導き出された結論は、控えめとは到底言えない。月は技術的に高度な文明の「基地」として機能しており、そこから発進した乗り物は20分ほどで地球に到達しうる。近年報告が相次ぐUAP(未確認異常現象)の正体はそれではないか——というのである。

「レンズの手前を漂う塵」を否定できない、視差データ不在という穴

 だが、この主張には専門家から厳しい指摘が向けられている。最大の問題は、視差(パララックス)データが存在しないことだ。

 地理的に離れた複数地点からの同時観測がなければ、映像に写り込んだ点が本当に38万km先の月の付近にあるのか、それとも望遠鏡のレンズのすぐ手前を漂う塵や虫なのかを切り分けられない。距離が確定しなければ、そこから逆算した「直径40km」という数字も一瞬で崩れる。

 実際、ハーバード大学の天体物理学者アヴィ・ローブ氏は、同じチームが2022年に発表した先行研究について計算上の誤りを指摘したうえで、写っていたのは虫や砲弾、あるいは人工衛星の見間違いだった可能性が高いとの分析を示している。

 今回のプレプリントについても、画像が疑似カラーで処理され元の10%程度のコントラストしか残っていないこと、独立検証に必要な生の動画データが公開されていないこと、問題の「物体」が数ピクセルにまで縮小してしまうことが弱点に挙げられている。

 世界中で何百万人ものアマチュア天文家が毎晩のように月へレンズを向けているにもかかわらず、同種の報告がほとんど上がってこない点も、説得力を削ぐ材料だ。

月周回軌道や月面に巨大UFOが存在する「証拠」としてよく引用される代表的な画像 画像は「Vigilia」より

所属表記を外された2022年——それでも発表を続けるチームの立ち位置

 このチームが「物議を醸す」と形容されるのには理由がある。

 2022年の研究に対し、主天文台の学術評議会はデータ処理が不適切であるとして内容を公式に否認した。著者らは論文から所属機関名を外すことを余儀なくされている。組織が自前の研究成果を切り離すのは、かなり重い措置である。

 今回のプレプリントも、査読を経ないまま複数のオープンプラットフォームへ同時に投稿されている。査読前論文の公開自体は現代の科学で珍しくないが、検証を通過した論文と同じ重みでは扱えない。

 一方で、月面で説明のつかない発光や一時的な現象(LTP)が数百年にわたり断続的に報告され、その一部が今も未解明のまま残されているのも事実だ。

 今回の主張が科学として立つかどうかを決める条件は、生データの公開と、離れた地点からの同時観測。たったそれだけだ。それが示されない限り、直径40kmの黒い円盤は「月面に浮かんでいる」のか「レンズの手前に浮かんでいる」のかすら、誰にも判別できないだろう。

参考:Vigilia、ほか

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