【宇宙】時速320万Kmで膨張する天の川の「巨大バブル」の正体!

 都会から遠く離れた山里で夏の夜空を見てみると、南の地平線をはうようにさそり座の星々がならぶ。その尾の左側では、いて座の星々がキラキラと輝いている。見上げると夜空全体を薄ぼんやりとした雲のような天の川が夜空を横断していて、いて座やさそり座の尾のあたりがもっとも濃い。

 我々の太陽系は銀河系という2,000億個もの星々が円盤状に渦巻いている中にある。天の川の正体がこの銀河系だ。直径はなんと10万光年。端から端まで、光ですら10万年もかかるくらいとてつもなく大きいのだ。ちなみに銀河系については『宇宙戦艦ヤマト2199でわかる天文学(半田利弘著)』で楽しくわかりやすく学べるのでお勧めしたい。


■銀河系中心部から噴き出す謎の泡

 2010年、NASAのフェルミ・ガンマー線宇宙望遠鏡のデータを解析していた天文学者が銀河系の中心部付近に奇妙なものを発見した。銀河面の上下に向かって大きな泡状のものがガンマー線映像に現れたのだ。これが今回紹介する「フェルミバブル」と呼ばれるガスの泡だ。1月に配信された「Daily Mail」の記事を元に、NASAやAstronomy誌のサイトも参考にしながら、この世にも不可思議なガンマー線の巨大な泡、フェルミバブルについて読み解いていこう。

 下の図1は、フェルミ・ガンマー線宇宙望遠鏡が全天のガンマー線をとらえた映像だ。

【宇宙】時速320万Kmで膨張する天の川の「巨大バブル」の正体!の画像1図1

 ガンマー線がやってくるのは主に銀河系から。それが写真を横一文字に写っている。ちょうど図の中央部が銀河系の中心で、さそり座の尾からいて座の天の川がとくに明るいところがそれにあたる。

 中心部から銀河系の外へ、図では上下に向かって何かが噴き出すような白い部分がある。その大きさは、銀河面から上下に2万5000光年(両方で5万光年)まで広がっている。これを、わかりやすく模式的に表現したのが図2だ。

【宇宙】時速320万Kmで膨張する天の川の「巨大バブル」の正体!の画像2図2

 フェルミバブルが銀河系の中心から膨張しているようすがわかる。ただし、フェルミバブルは人間の目には見えないガンマー線で光っているので、実際にこのように見えるわけではない。

 では次に、星座早見盤で夏の夜空を見てみよう(図3)。

【宇宙】時速320万Kmで膨張する天の川の「巨大バブル」の正体!の画像3図3

 南の空の地平線付近にいて座やさそり座が見える。フェルミバブルはそこから銀河面(天の川に)に垂直の方向、つまり、西のおとめ座の辺りまで広がっていることになる。銀河面の反対側にも伸びていて、つまりいて座の左下方向へ広がっているのだが、日本ではその辺は地平線の下に隠れて見えない。


■フェルミバブルの恐るべき正体とは?

 フェルミバブルの正体は、数百万年前に銀河系の中心から噴き出した9700℃(推定)のガスだ。均一なガンマー線の領域として観測され、しかも境界部分がはっきりしている。何でも融かしてしまうような高温を想像してしまうが、希薄なガスなので、仮に宇宙船でそこを旅しても、船体が融けることはない。さらにガスといっても、オリオン座大星雲といったガス星雲のように近くの恒星に照らされて輝いているのではなく、ガンマー線を自ら放っている。

 では、フェルミバブルのガンマー線はいったいどうやって発生するのだろうか。次の2つの説が有力だ。

1、ガスの中を飛び回る高エネルギーの宇宙線電子が、星々からやってくる光子(光を粒子として見たときのひとつひとつの粒)に衝突したときに、光子を高いエネルギーのガンマー線に変える。
2、陽子線などの宇宙線核子がガスと衝突しガンマー線が放出される。つまりフェルミバブルの中ではガスや電子がかなり激しく運動しているようだ。

 フェルミバブルの後ろにあるクエーサー(多量の放射能を放出する、遠くにある天体)からやってくる紫外線をハッブル宇宙望遠鏡が観測した。(図4)

【宇宙】時速320万Kmで膨張する天の川の「巨大バブル」の正体!の画像4図4

 そのスペクトルを分析した結果、フェルミバブルは毎時320万キロメートルもの速さ(地球から月まで7分くらいで行ってしまうくらいの速さ)で膨張を続けていること、ケイ素、炭素、アルミニウムなどの重い元素が存在することなどがわかった。こういった元素は我々の太陽よりはるかに大きく巨大な恒星の中心部分で核融合によって作られる。どうも超新星の爆発が関係しているようだ。


■フェルミバブルは星の墓場か?

 一体なぜ、このようなガスが銀河系の中心から外へと放出されているのだろうか? これにもまた2つの説がある。

1、いくつかの超新星の爆発(巨星が大爆発)で大量のガスが放出された
2、銀河系中心部にある巨大ブラックホールにいくつもの恒星が落ち込む時に、ガスが圧縮により超加熱されて逆に外へ噴き出した。

 フェルミバブルは数百万年~一千万年かけて膨張しており、これは宇宙の年齢138億年よりはるかに短い。そのため、今まで何度もこのようなガス噴出があったのではないかと言われている。

 今回観測されたクエーサーはひとつだけだったが、今後さらに多くの観測が予定されている。フェルミバブルの新しい事実が発見されることが期待される。
(文=山本 睦徳)

■山本 睦徳(やまもとむつのり)
ドキュメンタリー作家。地球科学のドキュメンタリー映画製作、記事を執筆。面白くて楽しく読める文章で読者を地球科学の世界へ誘う。http://www.earthscience.jp

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