脳は考えられていたほど複雑ではなかった! 全容解明も近いか?
脳のメカニズムは我々が考えているほど複雑なものではない――。複雑怪奇で手のつけようのなかった脳活動の全容解明に、一筋の光明が見えてきたかもしれない。最新の研究によれば、脳の全ての活動を理解できる日はそう遠いことではなくなるというのだ。
■運動中のアメフラシの脳で起る電気的変化を可視化
英マンチェスター大学の神経科学者、マーク・ハンフリーズ博士、米ロザリンド・フランクリン大学のウィリアム・フロスト教授とアンジェラ・ブルーノ博士らの研究チームは先頃、アメフラシ(Aplysia)の神経細胞を研究した論文を科学誌「Neuron」に発表した。
実験では、神経細胞の電気的変化を光変化に変換する「電位感受性色素(voltage sensitive dye)」を用い、運度中のアメフラシの脳で起る僅かな電気的変化を可視化して分析を行い、神経細胞の電気信号でコーディングされた「行動プログラム」を解析した。
これまでは運動に影響を与える神経細胞の回路の因果関係は単純な“ソロ”活動しかわかっていなかったが、今回の実験で回路内の複数の神経細胞が発する電気信号の“アンサンブル”を記録することができたということだ。そして移動中の関節の動きなど、単純な反復運動を司る回路が具体的に脳のどこにあるのか、マップを作成することもできたという。
そしてアメフラシの動きと、脳内の電気信号の様子をマップ化できたことは、人間の脳活動の解明に大きな貢献をもたらすとということだ。それというのも、神経細胞ネットワークの規模は大きく違えど、アメフラシの脳には人間の脳と似たような構造が一部にあると考えらているからだ。
人間の脳には860億の神経細胞があるといわれている一方、このアメフラシの神経細胞は1万8,000と、我々よりはるかに少ないが一部では同じ構造を共有しており、実際、アメフラシの脳の記憶と運動を指令する信号が、高等生物の脳の働きと同じであることが実験で証明されているという。“下等生物”とあなどるなかれ、アメフラシの脳の研究が人間の脳活動の全容解明に向けて大きく扉を広げるものになったのだ。
研究に携わったマーク・ハンフリーズ博士は「この研究は、脳内部の神経細胞の働きを明るみにする新たな方法をもたらすものになります。そして、脳が損傷を受けた状態や薬物に影響されている状態からどのように回復するかの理解を助けるものになります」と将来に向けた展望を「Daily Mail」の記事で語っている。
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