生きた“頭部だけの犬”?冷戦下で研究されていた“サイボーグ犬”開発プロジェクトとは?=ロシア

■ソ連科学界の犬を使った実験の歴史

 サイボーグ開発プロジェクト「ザ・コリー」が実在の計画であったのかどうか、今のところは半信半疑といった感もあるが、過去のソ連の科学界ではそれを信じさせるに足るべく多くの研究が犬を使って行なわれていたのは事実だ。

 ソ連の科学者、セルゲイ・ブルコネンコ博士は、1920年代に切断した犬の頭部を人工心肺システムに接続して数時間生かしておくことに成功し、その実験の模様を映像に収めた。

 現在「YouTube」で視聴できる動画を見ても、確かに切断された犬の頭部は皮膚の刺激に反応し、目はライトを眩しがり、耳は物音に反応している。今でこそ「fake」だという声も多く聞こえるが、この映像は当時の世界中の科学者を驚かせた。

 他にウラジミール・デミコフ博士もまたを犬を使った大胆な実験を何度も行なっており、1954年には犬の頭部移植手術にも成功し、いわゆる“双頭の犬”を作り上げて世を驚かせた(しかし手術後は1ヵ月ほどで死んでしまったという)。ロシアの科学界にこのような“素地”があったため、この「ザ・コリー」もあながち有り得ないことではないように思えてくるのも確かだ。

■かつて“サイボーグ・スパイ猫”の計画もあった!

 犬ばかりでなく、かつてアメリカでは“サイボーグ・スパイ猫”の開発が実際に行なわれていたというから、これにも驚かされる。

 科学ジャーナリストのエミリー・アンセス氏の2013年に出版された著書『Frankenstein’s Cat: Cuddling Up to Biotech’s Brave New Beasts』では、1960年代にCIAが猫の体内に極めて小型の集音装置や電波送信機などを埋め込み、“スパイ”として情報収集任務を担わせる計画があったことが述べられている。

 当時トップシークレットだったというこの“サイボーグ・スパイ猫”計画だったが、ちょっと考えてみればわかるように猫は犬のようには人間に従順な動物ではない。テストの段階でこの猫は、公園のベンチに座る目的の人物に近づき会話の内容を収録するところまではよかったのだが、不慣れな土地を歩いたせいか途中で迷子になり大通りに出たところをタクシーに引かれ、録音した音声データも破壊されてしまったということだ。この結果を受けて、CIAは“サイボーグ・スパイ猫”計画を中止、CIAの歴史になんともトホホ(!?)な汚点を残している。

 犬のサイボーグ化も猫をハイテクなスパイにすることも、なかなか困難であることが痛感されるこれらの“歴史秘話”だが、決してこの意匠(!?)は絶えることなく今日にも受け継がれ、現在科学者たちはもっぱら「昆虫」のサイボーグ化に熱心に取り組んでいるということだ。

 国防高等研究計画局(DARPA)による、カブトムシのサイボーグ化や、米ノースカロライナ州立大学が開発した災害現場で生存者を探索する「サイボーグゴキブリ」など、着々とサイボーグ昆虫=バイオボット(BioBot)の研究が進められている。ゴキブリなんかは見た目からして“スパイ”任務に最適(!?)だと感じられ想像するだけで背筋がゾッとしてくるが、今後いったいどんな“バイオボット”が登場するのか、楽しみでもあり怖くもあるが、科学は着実に前進していることは間違いない。
(文=仲田しんじ)

参考:「The Atlantic」、「io9」ほか

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