“神の眼”を持つ稀代の写真家 ― セバスチャン・サルガドの足跡をドキュメンタリー映画化

 

神の眼を持つ稀代の写真家 ― セバスチャン・サルガドの足跡をドキュメンタリー映画化の画像4

 名古屋のブラジル料理店に立ち寄ったサルガドは、ある日系人家族と居合わせると、サルガドは、「交互に小さな子供たちを抱き上げ、その頭をやわらかくなぜ、さすりながら、この一家にポルトガル語でゆっくりと話しかけた」。また、「サルガドはよく歌を口ずさむ。歩きながら鼻歌を楽しそうに歌う」とも述べている。ここから浮かび上がる等身大のサルガドは、「神の眼」という形容から連想されるような孤高の芸術家というよりはむしろ、気さくで親しみやすいひとりの南米人である。

 確かにサルガドの作品はあまりにも芸術的で、他を寄せつけないところがある。だが、それは彼の写真家としてのスタンスそのものにはあてはまらない。被写体に対するサルガドの位置関係は、超越的というより内在的である。40代のはじめの頃、南米各地を巡り、へき地に住む人々を取材した写真集『OTRAS AMERICAS』(PANTHEON BOOKS)を世に出したサルガドは、こう述べている。

 ラテンアメリカに行ったのは政治的な主張をしたり、芸術的野心を満たすためではなく、ただ何かを見て学ぶためであった。<「Newsweek」1987年4月23日号 (TBSブリタニカ)より引用>

神の眼を持つ稀代の写真家 ― セバスチャン・サルガドの足跡をドキュメンタリー映画化の画像5Sebastiao Salgado: An Uncertain Grace」(Thames & Hudson Ltd )

 よく言われるように、偉大な芸術家ほど実は謙虚なのだ。しかし、そうであるからこそサルガドは、人一倍の苦しみを味わいもした。それは、あまりにも過酷な生と死に接し続けたことが原因なのだが、そのことは映画の中で克明に語られているので、ここで多くを述べる必要はあるまい。今度は、私たちが彼から学ぶ番だ。
(文=斉藤 誠)

・参考文献
『OTRAS AMERICAS』(PANTHEON BOOKS)
『人間の大地 労働―セバスティアン・サルガード写真集』(岩波書店)
「Newsweek」1987年4月23日号 (TBSブリタニカ)
「アサヒカメラ」1994年8月号 (朝日新聞社)

■劇場公開日
8/1(土) Bunakamuraル・シネマ他全国ロードショー

■配給
RESPECT(レスペ)× トランスフォーマー

■公式サイト:http://salgado-movie.com/
©Sebastião Salgado ©Juliano Ribeiro Salgado ©Donata Wenders Salgado ©Sara Rangel

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