“神の眼”を持つ稀代の写真家 ― セバスチャン・サルガドの足跡をドキュメンタリー映画化

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 セバスチャン・サルガドは、「神の眼」を持つ写真家と呼ばれている。実際に彼の作品を一度でも目にすれば、これがさほど誇張された呼び名でないことを納得できるだろう。サルガドの被写体は、たとえば、広大な北極圏やアザラシの群れ、未開民族の人々や金鉱労働者、内戦による避難民などと幅広いが、共通するのは、写されたものが人であれ動物であれ何であれ、そこには常に侵し難いほどの厳粛な美が宿っているという点である。それは優れた宗教絵画に接した時の感覚に近い。彼の写真は明らかに何かを超越している。

 映画監督ヴィム・ヴェンダースもまた、サルガドに魅了されたひとりである。彼は初めてサルガドの作品を目にして以来、サルガドファンであり続けていると公言している。それから約25年の歳月を経て、ヴェンダースはサルガドの長男ジュリアーノと共に、映画『セバスチャン・サルガド/地球へのラブレター』を制作する。同作はすでに世界各国で高く評価され、今年8月1日には日本でも公開される。

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■エリート街道を捨て写真家に

 『セバスチャン・サルガド/地球へのラブレター』は、サルガドのライフストーリーである。1944年、サルガドはブラジルの片田舎で生を受ける。父親は農場主であった。この農園は、色とりどりの花が咲き、多種多様な鳥や虫が生息する地上の楽園だった。この王国で彼は、「ワニと一緒に泳ぐ」ような少年時代を過ごす。この原体験が感動的なラストシーンにつながるのだが、それはさておき、彼は10代半ばにして家を離れる。進学のためだった。経済学を修めた彼は、ある国際機関に職を得る。いわゆるエリート中のエリート、報酬も相当の額だったという。だが29歳の時、サルガドは信じ難い人生の選択を行う。写真家に転向したのである。

神の眼を持つ稀代の写真家 ― セバスチャン・サルガドの足跡をドキュメンタリー映画化の画像3Africa」(Taschen America Llc; Mul版)

■サルガドの知られざる人柄とは!?

 写真家としてのサルガドは、1982年に人間性や社会性を重視した写真作品を対象とした写真賞「ユージン・スミス賞」を受賞するなど早くから評価された。が、日本においてはあまり知られた存在ではなかった。1993年に東京で開催された「人間の大地」展では、写真家の石川文洋が「知名度が低いせいか、ゆっくりみることができた」と述べているほどだ。その翌年、サルガドは日本を訪れる。その際に案内役を務めたのが文化人類学者の今福龍太だった。その時のことを今福は、「アサヒカメラ 1994年8月号」(朝日新聞社)でこう述べている。

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