近親相姦の嫌悪は文化か本能か? 最新研究が紐解く「インセスト・タブー」の謎
広く人間社会において禁じられている最も根源的なタブー、それは殺人、食人、そして近親相姦だ――。社会の根幹を揺るがす禁忌の中に近親相姦が含まれているのは、考えてみれば実に興味深いことだ。果たして近親相姦のタブーは、文化的に形成されたものなのか? それとも人間の本能に基づくものなのか……。
ごく少数の例外を除き、近親相姦の禁忌(インセスト・タブー)は人類社会で共通に見られる普遍的法則(universal law)である。現代の研究では、人間以外の多くの動物も近親交配を回避しようとすることがわかっており、植物でさえもオシベとメシベの成熟のタイミングをずらして自家受粉を避けているという。植物ですら忌避するこの近親交配は、生物学的に有害な劣性遺伝子が結合する可能性を高め、種の存続を危うくするものと考えられている。とすればやはり、人間が近親相姦を嫌悪するのは、本能に刻み込まれたメカニズムなのだろうか?
■異性のきょうだいと親密な者は、近親相姦への嫌悪感が強い!?
「近親相姦は文化的なタブーなのか? それとも人間の本能に根ざすタブーなのか?」この問いについて、2007年にハワイのホノルル大学(デブラ・リーバーマン氏)とカリフォルニア大学(ジョン・トビー氏、レダ・コスミデス氏)との共同研究チームによる論文が、科学誌「Nature」で発表されている。もしも私たちが近親相姦を避ける本能を持っているとすれば、個々の「人間は近親者を区別する機能を持っている」と考えられる。この仮説を検証するため、600人以上を対象としたアンケート調査による研究が行なわれたのだ。
アンケートの回答者には、それぞれの家族の経歴などについての情報を提供し、近親相姦(主にきょうだい姦)にかんする道徳面での考えや、実際に抱く嫌悪感がどれほどのものかを詳細に吐露することが求められた。研究チームは、これらの質問によって人間の内面に根ざしている“近親者区別”のメカニズムを解き明かすことができると考えたのだ。
この調査の最大のテーマは、フィンランドの哲学者・社会学者であるエドワード・ウェスターマークが1891年に提唱した、いわゆる「ウェスターマーク効果(Westermarck effect)」を検証することにあった。ウェスターマーク効果とは、「幼少期から同じ生活環境で育った異性の者に対しては、互いが成長してからも性的興味を持ち難くなる」という仮説だ。具体的には、「母親に育てられている様子を目の当たりにしている自分の異性のきょうだいに対しては、その成長過程を知っているが故に、性的な感情を抱くことができなくなり、また性的な対象として想像するだけで嫌悪感を引き起こすようになる」というものだ。この感情が形成されることにより、結果的に近親相姦の回避に繋がっているというのだ。そしてこれは、身近な人々の利益を重んじる“利他心”を育むものにもなるという。
幼少期をともに過ごした期間もまた重要な要素であるという。もちろんきょうだいの多くは同じ環境で育てられるものだろうが、一緒に過ごした期間が長ければ長いほど、きょうだいの間の利他心が強まるということだ。しかもこれは、実のきょうだいではない継子や養子に対しても同じく育まれるものだという。
そしてリーバーマン氏らの研究チームは、調査の結果、異性のきょうだいと一緒に生活していた期間の長さや親密さが、近親相姦への嫌悪の強さに関係していることを明らかにした。つまり、「ウェスターマーク効果」が実証されたということだ。もしも近親相姦に対する嫌悪感が文化的なものだとすれば、このような要因には左右されないはずであるため、やはりそれは人間の本能に由来するものであると結論づけたのだ。
幼少期に生活をともにすることできょうだいと他人を区別し、近親相姦への嫌悪感を引き起こすメカニズムを人間が自発的に発達させてきたのだとすれば、確かに近親相姦のタブーが間接的に人間の本能に根ざしているものと言えるのかも知れない。しかしこのリーバーマン氏らの研究は、親や学校の性教育の影響を過小評価しているなどの指摘もあり、まだ議論の余地は残されているようだ。ともあれ、どうして近親相姦(とりわけ親子姦、きょうだい姦)を想像すると、強烈な嫌悪感が引き起こされるのか? 近親交配で生まれた子どもが遺伝的に不利となることは明らかだが、人間を含む動物は、それを研究の結果というよりも本能的に“勘付いて”いるが故に、嫌悪感とリンクさせることによって避けていることになる。
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2024.10.02 20:00心霊近親相姦の嫌悪は文化か本能か? 最新研究が紐解く「インセスト・タブー」の謎のページです。セックス、仲田しんじ、タブー、文化、本能、遺伝などの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで