【宇宙人特集】賢いはずの宇宙人が50年間も同じ手口で人間を誘拐し続ける謎
“わたしはいつも、出会ったアブダクティに「あなたの身に起きたことについて、ほかにもっといい解釈があると思いますか?」とたずねることにしていた。すると、彼らはおおむねこう答える。「あるかもしれません──でも、わたしは自分の直感を信じていますし、わたしの直感がエイリアンだと言っているのです」”(p.71)
さらに誘拐時のおぼろげな記憶を取り戻すため、アブダクティたちは催眠療法によって証言を引き出している。ただし、催眠は思い込みの記憶や嘘の記憶を引き出してしまうため、心理学においては“催眠は記憶を回復させるのに好ましい方法ではないことがわかっている”。(p.91)
それでもアブダクティたちは自分の直感を信じてやまない。結局のところ、人間は思い込みが激しく、人は都合のいいことしか信じないし、信じようとしない、という当たり前の事実が浮かび上がる。
また著者は、宇宙人がいたとして、なぜ似たような人間ばかりを誘拐し、精子や卵子の採取を続けるのかと疑問を投げかける。
“(宇宙空間を移動し地球に到達できるまでの高度な技術を持っているであろう)頭のいいエイリアンがなぜ、なぜこんなまぬけなことをしているのか? 50年間も人間を誘拐しつづけているのに、どうしていまだにおなじようなものを集めているのか? 彼らは冷凍庫を持っていないのだろうか?”(pp.152-153)
果ては、宇宙人とセックスする時、服を着ていた宇宙人が恥じらいを見せていたというエピソードすらある。そもそも、宇宙人は服を着るものなのか、裸になることを恥ずかしがる近代的な人間観をなぜ持っているのだろうと疑問は尽きない。
さらに、被害者がアメリカ人に集中しているのはなぜか。白人もいれば黒人、ヒスパニック、アジア系と多くの人種が集う国だけに、アメリカ人を狙えば多くの人種のサンプルが取れるという見方はできるだろう。だが、北米大陸に現れたとしたならば、カナダ人やメキシコ人はなぜ狙わないのかと、単純な疑問も浮かぶ。
加えて著者はアブダクティ現象における、メディアの影響も指摘する。宇宙人に誘拐されるというシチュエーションはアメリカの映画やドラマではよく登場するものであり、著者のツッコミも冴える。
“現在のアメリカでは、エイリアンがどんな姿をしていて、誘拐した人間にどんなことをすると言われているかについて、知らない人間はほとんどいない”(p.61)
“一九五三年の『惑星アドベンチャー/スペース・モンスター襲来!』という映画までは、だれもエイリアンに誘拐されなかったらしい”(p.130)
また著者は、勤務校のある中米のニラカグアの大学院でも、実験を行った。学生たちは宇宙人の姿を正確に描き、アブダクションのストーリーも明瞭に語ることができた。(p.150)という。彼らはなぜアブダクティと同一の、記憶を語れるのか。それは、高等教育を受けている彼らは、英語を操り、アメリカのテレビや映画を日常的に見ているからにほかならない。
かつてアメリカで多重人格犯罪者をテーマとする『24人のビリー・ミリガン』(早川書房)をダニエル・キイスが上梓した際、同じ症状を訴える人間が続出したという。
さらに、本書の巻末解説ではサイエンスライターの植木不等式によって、レーダー装置が発明されたあと、「心の中を電波でのぞかれている」と訴える軍人が現れ始めた現象が紹介されている。いずれも、人間の記憶のあやふやさを象徴するエピソードだろう。
本書では、結論部において宗教とアブダクティの関連についても言及されている。“わたしたちの多くは神のような存在とのコンタクトを求めていて、エイリアンは、科学と宗教の矛盾に折り合いをつける方法なのだということだ”(p.222)。この説は、ほとんどの国民が神の存在を信じ、進化論を否定するアメリカ人だけに、アブダクティが起こる理由を明確に説明している。
本書は宇宙人誘拐の真理を心理学の見地から解き明かしたエッセイであるとともに、すぐれた現代アメリカ(人)社会論でもあったのだ。
(文=王城つぐ/メディア文化史研究)
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