「イスラム国BGM」はなぜかっこいい? 楽器NGの宗教歌「ナシード」の魅力

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 異教徒や海外のジャーナリストを拉致しては殺害する様子を撮影し、その動画をアップロードしている「イスラム国(IS)」。そのあまりにも悲惨な光景に、思わず目を背けてしまうが、それぞれの動画には独特の雰囲気を持つ音楽が流れていることが多い。

 これらの動画によく使われている音楽は「ナシード」と呼ばれるもので、イスラム教の宗教歌である。ISに限らず、イスラム過激派が処刑動画やPR動画などでBGMとしてよく利用している音楽だ。しかし、ナシード自体は過激派とはなんら関係のない文化であり、そのハーモニーは人々をひきつける魅力がある。

 使用されている動画の内容のおかげでナシードに対する印象も悪いかもしれないが、それだけでこの音楽を切り捨ててしまうのはあまりにももったいないのだ。

■イスラム教と音楽――楽器は悪魔の呼びかけ

 ナシードはイスラム教の宗教歌で、チャント(唱歌)の一種である。歌詞は宗教的な内容を歌うものが多く、世俗的なものではない。過激派組織が作ったナシードの場合は、政治的な主張を含むものもあるようで、よく聞いてみるとビン・ラディンなどの聞き覚えがあるテロリストの名前が出てくることもある。

 ただ、イスラム教では音楽自体が明確に禁止されてはいないものの、楽器を使った音楽は避けられることが多い。これは、預言者ムハンマドの言行録「ハディース」において、楽器が「悪魔の呼びかけ」であるという記述があるためだ。世俗的な価値観を認めないイスラム過激派にいたっては、楽器の使用を禁じており、楽器を燃やす動画を公開してその意志を示している。

 そのため、歌には伴奏がつきものだが、ナシードはアカペラ形式の音楽になることがほとんどだ。戒律のゆるい地域では、楽器を少し使ったり、英語の歌詞で歌ったりしている歌手もいるが、基本的には楽器は使わない。メインの旋律を歌う歌い手と、その横で何人かがハモることが多いようだ。

 ナシードそのものを集中して聞いてみると、独特な節回しと美しいハーモニーが奏でられており、その完成度の高さに驚く。同じく宗教音楽をルーツとする、米国のゴスペルミュージックに通ずるものも感じる。楽器を使わずにこれほどのものを作れるのは、それまでの文化の集積があってこそのものだろう。

■銃声を打楽器にする「イスラム国」

 ただ、どれだけ音楽的に素晴らしくても、それが流れる動画で残虐なことが起きているため、ナシードのイメージはやはり悪くなってしまう。

 さらに、ISなどの組織がナシードの制作を続けていることも、印象を悪くする一因だ。彼らは打楽器の代わりに銃声や砲撃音をアクセントとして使用していることもあり、好戦的なイメージが付きまとうのは否めない。

「イスラム国BGM」はなぜかっこいい? 楽器NGの宗教歌「ナシード」の魅力の画像1ISの作曲家、画像は「cbsnews」より引用

 しかし、昨年の夏に、ISに所属してナシードを作っていた作曲家が、空爆によって死亡したため、その状況は変わる可能性もある。

 普通に歌っているところの映像を見れば、その魅力が伝わることは間違いない。有名な歌手もいるらしく、アブ・アリという、サウジアラビア人の歌い手によるナシードは、さまざまな動画で使われている。現地の一般大衆の間でも名前が知れているようで、学校でアブ・アリの歌をみんなで歌うということもあるようだ。

 今年に入ってサウジアラビアとイランが国交を断絶するなど、混迷を極める中東の情勢であるが、ナシードの音楽性のみが注目されるような世の中が、早く来ることを願うのみである。
(文=編集部)

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