明らかに人間を超える人工知能の誕生か? 1億ドルの脳解析プロジェクト「MICrONS」

■最終目標は人工知能の飛躍的な向上

 コックス氏のチームはモニタに写されたモノに反応するラットの脳を二光子顕微鏡術と呼ばれる技術を利用して、カルシウムに反応する蛍光たんぱく質がニューロンを移動する状況を、電話を盗聴するかのように観察することから始めるとしている。その後、その観察された脳は、ハーバード大学の生物神経学のリヒトマン研究所に送られ、限りなく薄くスライスされ、その神経のネットワークを分析するという手順で進められる。

 一方、トリアス氏のチームはコックス氏のチームのアプローチと似てはいるが、三光子顕微鏡術と呼ばれる技術を利用し、脳の奥深くの動きを探ろうとするものである。コックス氏の観察が表面的であるとすると、トリアス氏の観察は内部の観察にあたるというものらしい。

 リー氏のアプローチは前2者とは全く異なり、DNAバーコード化という技術を使う。ハーバード大学医学部のジョージ・チャーチ氏の協力を得て、ニューロンにあるDNAに含まれるヌクレオチドの配列をそれぞれバーコードのように特定化し、科学的にその配列を再構築していこうとする、全く新しい技術を利用するアプローチであるという。

 しかし、この3チームによる研究は、MICrONSの前半部分にしかすぎず、この調査によって解明される脳の働きを、アルゴリズムとしてプログラム化し、人工知能が自学自習できるようにしていくのが、プロジェクトの最終目的であるという。例えば、人間の視神経を例にとってみると、光を目の中にある網膜が受けると、それが電気信号となり、視神経を伝わり、脳でその光の情報を再構築するというプロセスがある。脳で映像が再構築されるまでは、網膜が受けた情報は2次元的な情報でしかないものが、脳内で再構築される映像は、3次元イメージとして再生されている。この2次元の情報から3次元のイメージを推測して構築する手順は、理論的には、数学的に変数を近似値化し、そのパターンを確立モデルに参照するというプロセスがあるのだが、脳はこの方法よりも効率良く処理をしているという。この脳がとる方法をアルゴリズム化することができれば、人工知能の能力が飛躍的に伸びることは明らかなのである。

 確かに、仮に脳のプロセスが解明されたとしても、それを人工知能に移植することは不可能ではないだろうかと、このプロジェクトに懐疑的な科学者がいないわけでもないらしいが、もし成功すれば、新しい人工知能がもたらす新しい世界が開かれるという希望もある。SF的に考えれば、それが人類に希望をもたらすか、絶望を運んでくるのかはわからなくなるが、このプロジェクト自体の成功は、コンピュータの世界に何かをもたらすことは間違いないだろう。未来を開く研究とでも呼べるのだろうか、この研究の進捗からは、当分目が離せないのではないだろうか。
(文=高夏五道)


参考:「Scientific American」、ほか

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