「首アリ魚」は存在するのか? 生物の進化で判明した“首”の役割とは?

■浅瀬で生き抜くための“首”の機能

 我々の祖先は首を発達させることでどんなアドバンテージを獲得していったのだろうか。“陸に上がった”ティクタアリク・ロゼアエだが、いつでも水の中へと戻れる両生類としてしばらくの期間を過ごしたと考えられえている。沼の浅瀬などが主な生息地だ。

 そしてこの浅瀬で生き抜くには“首”の可動域を広げていくことが求められたのだ。身体の一部が水面から出る場合もある浅瀬では、水中のように簡単に身体の方向を変えることができないからだ。こうして我々の祖先は首を発達させることで巧みにエサを捕食し、水に浮かんだ状態でも口を水面から出して肺呼吸ができるようになったのだ。


■グレーな時代の生物に起こった“モザイク進化”とは

 我々の祖先が“首”を発達させながら着々と両生類へ、そして四肢動物へと進化の階段を上っていた時代は約2000万年続いたといわれ、学者の間ではこの時代はまだまだ謎が多い“グレー領域(gray area)”と呼ばれている。そしてこのグレー領域の時代の生物に訪れたのが“モザイク進化”である。

 陸に上がったティクタアリク・ロゼアエの“首”のように、モザイク進化の特徴は身体のパーツが一部独立して先に進化していくことだ。身体のある一部分の構造をまず先に急速に進化させることで、その後の残りの身体全体の進化を促すのである。

“首”を発達させてきた種は、まずは基本的に肉食獣として進化を遂げたという。首の可動域が広がり、早く動かせるようになることは捕食行動において大きなアドバンテージになるからだ。

 そしてデシュラー氏によれば、海の哺乳類であるイルカやクジラはいったんは陸に上がったものの、再び海へ戻っていった種であるという。その際に、陸にいた時には比較的長かった首を、再び魚のように短くして胴体との結びつきを強めたということだ。やはり首は陸上動物ならではのパーツであり、水の中では無用の長物になってしまうのである。

 はるか3億万年以上も前に、我々の祖先がさまざまな思いを込めて発達させてきた首を、今日陸上で暮らすことになった人類もまた備えている。時にはこうして壮大な歴史を振り返り、首があることの意味と獲得する過程の壮大な物語に思いを馳せてみてもよいのではないだろうか。
(文=仲田しんじ)


参考:「Live Science」、ほか

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