■話し、打ちのめされ、考え、また打ちのめされ続けた沖縄での日々️
すべての写真は2013年11月から1年3か月の間に沖縄に住み、県内を走り回って撮影されたものだ。
「沖縄にどっぷり浸かるために、なるべく東京には帰らないようにしていました。1年という時間は受験勉強のようなものです。没入しないといけない。でも気持ちが入り込むほどに自分の精神がグラグラと揺れ動く日々でもありました」(初沢)
辺野古の基地移設問題は、海外においては日本人による少数民族差別の問題として報道されているという。学生時代にジェンダーを研究していた初沢の写真活動の根底にあるのは、権力と差別の構造に対する関心だ。この姿勢はイラクや北朝鮮、東日本大震災の被災地などを撮ったこれまでの作品でも一貫している。沖縄を撮影地に選んだのも同じ問題意識からだ。
「差別とは差別される側の問題ではなく、差別する側の問題です。被差別者の告発は多くの場合、差別者にとって耳が痛い内容であり、シャットアウトされてしまう。差別者の側が自らの問題として取り組む以外に解決策はありません。現地の声を聞くことは確かに苦痛を伴います。差別者である、という自覚を深めていくプロセスは厳しいのも事実ですが、それ以上に彼らが背負ってきた苦しみの方が遥かに大きいことを知ることになります。差別問題は現実の世の中では錯綜していたり、入れ子構造になっていたりする。しかし、1つの差別問題を掘り下げようとしたら、その位置に踏み留まらなければならない。だから、今回の写真集では離島は撮影しなかった。本島と離島の差別構造にまで視野を広げると、沖縄を抑圧する側である自分を免罪することになりかねないからです」(初沢)