■全肯定することで世界は美しくなる
『沖縄のことを教えてください』を観て思うのは、どの写真も美しいということ。沖縄に限らず、人々の生きる日常は綺麗なことだけではない。にもかかわらず、どの写真も美しい。最後にその理由を尋ねてみた。
「『被災地』『北朝鮮』『沖縄』は広い意味での三部作ですが、人間そのものが持っている不条理、社会が抱えている不正義、その両方を合わせ込みながらいかに美的に描き出せるかが、自分としての挑戦でもありました。『美しさ』は人の関心を引き寄せる、わかりやすいフックにもなる。美しいとは時に恐ろしさを含んでいることもあり、美しさの先に戸惑いが生じることもある。あるトークショーの質疑応答で『話すことは政治的なのに、なぜ写真はこんなにも明るく美しいのか?』と問われたことがあります。答えられることは1つです。『根本的に人間や世界を全肯定している』から。そのうえで、個々の不正義を個々のレベルで解決していかなければいけない。今回の写真集は写真と長い原稿との二層構造になっています。多様性は写真表現が得意とするところですが、二項対立の徹底した確認は文章でしか伝えることができません。最初は写真を楽しんでいただきたい。美しさを感受するその先に戸惑いの感情が湧いてきたら、原稿をじっくりと読んでもらえると嬉しいです。1年3カ月の滞在で感じたこと、学んだこと、知ってもらいたいことが1冊に詰まっています」(初沢)
「不条理も不正義も含めて世界を全肯定する」……この視座は、ただでさえ気が塞ぐような出来事ばかりのこの時代を生きる僕たちにとっても有効なサヴァイヴァルスキルなのかもしれないと、ふと思う。もしも初沢の “眼” を獲得できたなら、日々目の当たりにする光景はきっと輝きを増すはずだ。
6月22日より6月26日まで、福岡市のあいれふで写真展が開かれている。週末にはトークショーのスケジュールも予定されているので、この機会にぜひ足を運んでみてください。
(文=渡邊浩行/YAVAI-NIPPON)
■作者プロフィール
初沢亜利(はつざわ あり)
1973年フランス・パリ生まれ。上智大学文学部社会学科卒業。第13期写真ワークショップ・コルプス修了。イイノ広尾スタジオ経て写真家として活動を始める。2013年に第29回東川賞新人作家賞を、2016年に平成28年度日本写真協会賞新人賞を受賞。作品集に『Baghdad 2003』(2003年)、『True Feelings -爪痕の真情-』(2012年)、『隣人。38度線の北』(2012年)がある。
■写真集info
『沖縄のことを教えてください』
発行元:赤々舎
定価:3,800円+税
http://www.akaaka.com/publishing/books/bk-hatsuzawa.html
■写真展・イベントinfo
・初沢亜利写真展「沖縄のことを教えてください」
日時:2016年6月22日~6月26日 10:00~18:30(22日は12:00より、26日は17:00まで)
場所:あいれふ1階コミュニティプラザ/福岡県福岡市中央区舞鶴2-5-1 入場料:無料
https://www.facebook.com/events/126081151140456/
・初沢亜利講演会「沖縄のことをおしえてください」
日時:2016年6月24日 18:30~20:45
場所:あいれふ8階ココロンセンター研修室/福岡県福岡市中央区舞鶴2-5-1
入場カンパ:1,000円
https://www.facebook.com/events/631511313669598/
・沖縄を語る会「初沢亜利 沖縄滞在を振り返る」
日時:2016年6月25日 19:00~21:00
場所:屋根裏貘/福岡県福岡市中央区天神3-4-14
聞き手:寺江圭一朗 入場料:1500円(1ドリンクつき) 終了後懇親会あり
TEL 092-781-7597
https://www.facebook.com/events/899006760208868/
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