ジカ熱やエボラ…東京五輪でウイルスパンデミック起きる可能性は? 生態学者語る「人類駆逐するウイルス」

ジカ熱やエボラ…東京五輪でウイルスパンデミック起きる可能性は? 生態学者語る「人類駆逐するウイルス」の画像3画像は、五箇公一先生@研究室

■ウイルスの進化速度に対して人間の創薬スピードが間に合わない

——新たなウイルスがアフリカで起こりやすいのはなぜですか?

五箇 生物多様性が高いからです。エボラ、HIV、SARSなどの新興感染症を含めて人間に感染する病気の多くは野生動物に寄生する病原体が起源とされています。だからアフリカのように生物多様性が高く、かつ、経済発展と自然破壊が急速に進んでいるところは新興感染症のホットスポットになります。なぜならウイルスが住みかを失って人間への感染を始める場所となるからです。エボラ出血熱も元々はある地域だけで起こる風土病だったはずです。しかし、アフリカの環境破壊が進んで、ウイルスが社会に入り込んでくる。さらにウイルスに感染した人が動くことを繰り返す。ウイルスは人間体内で急速に進化して感染がどんどん広まることになります。

——五箇さんは今の地球環境をどう見ていますか?

五箇 今は地球の自然環境に大きな異変が生じて、人間にとってクライシス(危機)を迎えつつあると思います。今まで動物とウイルス、同じ生態系に共生していたものが、人間社会と敵対するように進化してきている。ウイルスが人間社会で猛威をふるいはじめているのも生命の進化現象なんでしょうね。ウイルス、バクテリア、病原体というものは人間にとって不都合でコワい存在ですが、実は人間が登場する遥か昔から地球上にはいたわけです。なぜ彼らが存在しているのかといえば、役割があって、増えすぎた生物個体群を減らすことだったわけです。

——ということはウイルスが増えすぎた人間を狙ってもおかしくはないですね。

五箇 生命はみんなそうです。ライオンがシマウマを食べて、シマウマの個体数が調整されているんです。同時に脚の早いシマウマだけが、適応し進化していくわけです。食べるもの、食べられるものお互いに進化し続ける。そして生態系ピラミッドが安定するわけです。ウイルスの役割は内側から食べ、弱い個体を排除する。自分たちがいても死なない生物の中で生き残り共進化を果たす。増えすぎていると、タカりにいく。現在は明らかに人間の数が増えすぎていて、だからウイルスがたくさん襲ってくる。また人の数が密集していると伝染もしやすい。ホストとしてもってこいです。「そのうち生き残るやつもでてくるだろう」とウイルス側が攻め続けている状態です。本来、進化のルールとしてはウィルスの蔓延とともに人間がバタバタと死んでいって、最後に、ある程度の個体数で生き残った抵抗性人類がウイルスと一緒に進化していき、新しい人間とウィルスの共生系が作られる。でも、人間は、誰も死にたくないので、薬でウィルスを排除しようとする。死ぬべきものが死ぬという進化ではなく、ウイルスを死滅させようとする。そうするとウイルスも抵抗力をつけパワーアップする。この人間とウィルスの間のいたちごっこ(軍拡競争)は圧倒的に人間の方が分が悪い。ウィルスの進化速度に対して人間の創薬スピードが間に合わない。今後新しいウィルスの感染爆発を防ぐためにも、彼らの住処である生物多様性の保全や自然共生を考えていかなくてはならない。

——まるでウイルスに意思があるかのようですね。

五箇 端からみるとそうですが、ウイルスとしては強い遺伝子を持ったものだけが生き残って、人間を襲っているんです。

ジカ熱やエボラ…東京五輪でウイルスパンデミック起きる可能性は? 生態学者語る「人類駆逐するウイルス」の画像4画像は、五箇先生資料

——現状の人口はバランスの悪い数なんですか?

五箇 例えば成人体重が5、60キログラムと、動物界でも大型の霊長類が70億人。しかも貧困で早逝するアフリカなども合わせたとしても何十年という長寿命です。先進国のひとりの人間の一生あたりの消費するエネルギーはアフリカ象何十頭分に匹敵するはずです。カロリーベースで計算しても、地球上のエネルギー資源をものすごい勢いで吸い取っています。化石燃料を掘り出し、燃やして生じる有害物質などの排出量などの有害物質もすごい。そう考えると70億という数字が生物学的に異常とわかる。今後半世紀で100億人を超えると予想されていますからね。一時的にしろ、人口爆発は地球への負荷も大きくなるんです。我々ホモサピエンスは大型の動物です。体型の近いほかの類人猿、チンパンジーやゴリラを見ると、本来の自然にいる個体数はとても少なく、1000万頭もいないぐらいなんです。それが地球上のエネルギーで支えられる適正な割合なんです。だからどう見ても70億人はおかしい。そうなると元々の自然エネルギーだけでは人間社会の資源は支えられないので、農業や工業で生産性を高め、そこに化石燃料を投入し、結果、大量の熱エネルギーと温室効果ガスを排出し、大量の廃棄物がたれながされる。自然生態系では外部から投入されるエネルギーは太陽光だけですが、それだけではこの膨大な人間の人口を支えることができないため、化石燃料が投入され、自然サイクルを超えたエネルギー消費と物質生産が繰り返され、自然生態系の収支は完全に狂ってしまった。どこかで止まらないと。まずは我々先進国から省エネ循環型社会を目指さない限り、地球環境の持続性は実現し得ないと思います。

——100億人に行く前になにかが起こりますか?

五箇 ぺっちゃんこになってしまうかもしれない。全滅はしなくても、不幸なことに貧困、飢餓、病気に悩まされることになる可能性がある。

——貧困や飢餓でカニバリズムが起こる可能性もありますか?

五箇  原始人類の歴史を考えると、ありえます。人間同士が殺戮により資源の独占をはかる。例えばイースター島のモアイ像を作っていた民族は自滅しました。島の中にいくつも部族があって、資源獲得競争の果てに人口増加と自然破壊と争いの繰り返しの果てに滅んだともいわれています(その他、イースター島の悲劇には諸説あり)。資源を巡っての民族間・国家間の争い、戦争が起こるリスクは現代でも決して小さなものではなく、現在の不安定な世界情勢を考えると、むしろ大きくなって来ている。
(取材・文=松本祐貴)

【第五回は、「日本は鎖国するべき?」11日配信予定

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五箇公一(ごか・こういち)
1965年、富山県生まれ。国立環境研究所生態リスク評価・対策研究室室長、農学博士。京都大学農学部卒業、京都大学大学院昆虫学専攻修士課程修了。宇部興産株式会社に入社し、殺虫剤、殺ダニ剤を開発する。1996年から国立環境研究所にて生物多様性の研究や法律改正などに関わる。著書に『クワガタムシが語る生物多様性』(創美社/集英社)などがある。

松本祐貴(まつもと・ゆうき)
1977年、大阪府生まれ。編集者・ライター・世界のマイナー酒・居酒屋研究家。大学在学中からライターをはじめ、その後、雑誌記者、出版社勤務を経てフリーで活動する。テーマは旅、酒、サブカル、趣味系など多数。初の著書『泥酔夫婦 世界一周』(オークラ出版)が発売中。・ブログ~世界一周~旅の柄:http://tabinogara.blogspot.jp/

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