昆虫を愛でることができるのは日本人だけだった!! 五箇公一が語る「生物学的に世界でも特殊な日本人」

 

昆虫を愛でることができるのは日本人だけだった!! 五箇公一が語る「生物学的に世界でも特殊な日本人」の画像3五箇先生研究室

■日本人のDNAに見合った生き方を考えるべき

——日本人よりも外国人が日本のよさに気づき始めている、と。地球の将来を思うと、縄文や江戸の暮らしを人類全体が考える時なのかもしれないんですね。

五箇 現在の人口問題に立ち戻ると、パラダイムを大きく変換して、過去の日本人の生き方から学ぶ時代です。遠からず日本も鎖国に近いぐらい困窮に陥る可能性がある。GDPも中国に抜かれ、お金を出しても資源を取れなくなる。物質生産も諸外国にイミテートされ、国内で車も電化製品も作ってはいないし、最近ではシャープもアジアの大企業に買い取られた。すでに経済先進国としての成長は終わりを迎え始めています。ジャパン・マネーは失墜していく。否が応でも縄文時代の精神に戻り、自分たちでなんとかしていかなくてはならない時代が来ます。それほど強烈なクライシス(危機)が起こらないと、経済優先社会は変わらないのかもしれません。

——たしかに、経済優先の社会はどこかで歯止めをかけなければ、狂想状態が続きそうです。

五箇 私の専門の生物学の見地から政策に対して提言するのであれば、日本人のDNAに見合った生き方を考えるべきと。日本人は腸が長く植物食として進化してきた。大腸が短く肉食として進化した民族とはミトコンドリアから違うんです。エネルギー生産効率も違う。短距離は弱いが、長距離走は強い。日本人は沢庵とご飯を食べて生きることに適応してきたのです。生物学的な適応性を基本に生活スタイルを見直せば、健全で持続的な社会が築かれるのではないかと期待されます。

——種として分かれているわけではないですが、日本人とほかの国の人たちの間では、文化も生活も違いますからね。

五箇 日本国内の政治経済対策としても、地方を大切にした方がいいと思います。固有種とまではいいませんが……。生物学と一緒で地方の環境に特化した産業と文化が構成されることで、安定した地域経済が維持される。地方に根付いた人々が増えることによって、地方分権の社会を作れる。経済も分散されるので、環境変化に強い経済母体も作れる。どこかで突発的な経済破綻が起こっても、ほかから経済利益を投下できれば、復活できる。グローバリゼーションの時代にあって次に我々が目指すべき社会コンセプトは、現在とは逆方向のローカリゼーションです。農業、林業、水産業などの第一次産業を基幹として地方の経済、社会を発展させる。いわば、里山社会の再構築。ただし、かつての不便で厳しい里山社会とは異なって、現代では移動インフラのみならず情報ネットワークも充実し、近い将来遠隔操作で医療することも可能となると考えられています。つまり地方に住んでも不便ではない、遅れを取らない、という社会形成が現代では可能となる。ネオ・サトヤマは決して荒唐無稽な思いつきではなく、人々のパラダイムシフトひとつで実現可能なビジョンなんです。

 我々の生物多様性研究の目的は、最終的に得られた成果から日本の経済、社会、ひいては世界の経済および社会をいかに安定させていくかというロードマップを導くことが狙いです。生き物がカワイイ、楽しいだけではなく、生物界の異変をひもといていくとグローバリゼーションの問題や人口問題が見えてくる。生物学からみて、いかに社会をいい方向に向かわせるか。これこそが我々、国立環境研究所が目指す研究なんです。

——非常にわかりやすいお話でした。生物学から生物多様性、オカルトチックな質問にまで答えていただきありがとうございました。

五箇 でも、私の考え方がおかしいかもしれないですからね。すべて研究者のいうことは鵜呑みにしない方がいい。先日もNHK連続ドラマ『あさが来た』を見ていたら、明治維新の後、ヒロインが炭坑を掘り出していましたよね。私はそのシークエンスを見て「化石燃料の時代の幕開けだ。これからどんどん燃やされてCO2が排出されてしまうんだ……」と、ひとり呟いてしまった(笑)。女性の社会的進出の物語のはずが環境破壊の始まりの物語にしか見えないなんて、もう病気でしょ(笑)。

 日々、地球の環境保護に尽力されている五箇先生らしい笑い話だが、僕たちも真剣に生物多様性や保護問題を考える時期にきているのかもしれない。


【第6回(最終回)は、「オマケ編! とにかくおかしな質問をぶつけてみた」12日配信予定

【五箇公一先生インタビューシリーズ一覧はコチラ

五箇公一(ごか・こういち)
1965年、富山県生まれ。国立環境研究所生態リスク評価・対策研究室室長、農学博士。京都大学農学部卒業、京都大学大学院昆虫学専攻修士課程修了。宇部興産株式会社に入社し、殺虫剤、殺ダニ剤を開発する。1996年から国立環境研究所にて生物多様性の研究や法律改正などに関わる。著書に『クワガタムシが語る生物多様性』(創美社/集英社)などがある。

松本祐貴(まつもと・ゆうき)
1977年、大阪府生まれ。編集者・ライター・世界のマイナー酒・居酒屋研究家。大学在学中からライターをはじめ、その後、雑誌記者、出版社勤務を経てフリーで活動する。テーマは旅、酒、サブカル、趣味系など多数。初の著書『泥酔夫婦 世界一周』(オークラ出版)が発売中。・ブログ~世界一周~旅の柄:http://tabinogara.blogspot.jp/

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