特攻計画の遂行に影響を与えた男の最後の言葉
特攻計画の遂行に影響を与えた男の最後の言葉 『人間爆弾「桜花」』監督・澤田正道インタビュー

「桜花」という特攻兵器をご存知だろうか?
桜花は1.2トンの爆薬を積み、敵艦に体当たりするためだけに作られた有人誘導型航空兵器だ。この、いわば「翼の付いた人間爆弾」は太平洋戦争末期、劣勢になった戦局を打開するための切り札として日本帝国海軍により計画、開発された。
ところが時既に遅く、絶望的な戦況のなかで桜花に乗った55名の隊員が特攻で死亡するも、状況を好転させられるような戦果を挙げることはできなかった。その無謀さから、アメリカ軍は桜花のことを「Baka Bomb」(バカ爆弾)と呼んでさえいたという。
この桜花への搭乗を真っ先に志願しながら、搭乗員の育成と選抜を命じられたために搭乗できぬまま生き残ることになった元海軍士官、林冨士夫さんの告白を収めたドキュメンタリー『人間爆弾「桜花」ー特攻を命じた兵士の遺言ー』が公開されている。監督を務めた澤田正道さんに、この映画について話を伺った。プロデューサーとして数々の作品に携わってきた澤田さんが、あえて監督としてこの映画を作りあげるまでには、不思議な縁の結び付きがあった。

■最初は監督をするつもりじゃなかった

――澤田さんはこれまでプロデューサーとして、数多くの映画作品に携わってこられました。
澤田 お金のこともあるし、うるさい人達がたくさん関わっているから結構しんどいけれど、基本的にプロデューサー業は好きなんですね。いっぱいいろんな作品を手がけられるじゃないですか。自分で監督をすると3年に1本くらいしか撮れないですからね。ヴィム・ヴェンダースも言ってましたよ。「撮影は他の人にやらせて、企画とシナリオを書いて、あとの編集は自分っていうのがいい」って。
――そんな澤田さんが、『人間爆弾「桜花」ー特攻を命じた兵士の遺言ー』(以下、『桜花』)についてはご自身が監督を務められた。なにか特別な理由があったんですか?
澤田 『桜花』は、もとは別の監督に頼む予定だったんですね。僕が企画を考えて『THE WINDS OF GOD』の分隊長役をやった天田暦くんを通して主人公である林冨士男さんを見つけて、監督には別の人を探したんです。最初はレオス・カラックスにしようかと思ったんだけど、当時伸び始めていたベルトラン・ボネロに「やらないか?」って言ったら、彼は生と死について非常に興味があったので話に乗ってきて、「やれるかどうかわからないから林さんと会ってみたい」と言うから日本に連れてくることになった。そこで、いずれ使えるだろうから映像も撮ってこようということになったんです。この時に撮っておかないと、いずれ撮れなくなって企画そのものがなくなるかもしれないと思ったから。それから2008年くらいまで彼に渡しておいたんだけれど、いろいろな理由でできず、結局僕が引き取ることになったんです。それで、新しい監督を探している時、ある人に「なんでお前がやらないんだ?」と言われて「言われてみればそうだな」って思ったんですよね。

――プロデューサーと監督では仕事の内容が違うので大変だったのでは?
澤田 「どう料理するんだ?」「僕にとって生と死とは何だ?」「戦争とは何だ?」ってことや「何を作らなければならないのか?」「実際に作れるのか?」っていうこと真剣に考えましたよ。それから2013年くらいだったかな、30時間くらいのラッシュを観た時に林さんと共有した時間を思い出して「これだ」と思った。林さんとの時間を映画の画面に焼き付けることで、僕が味わった体験を観客と共有できればこの映画はいけるかもしれないと思ったんですね。
――それで『桜花』は林さんの話が淡々と続くドキュメンタリーになったわけですね。
澤田 あと、日頃自分はプロデューサーだから、澤田っていうプロデューサーが澤田っていう監督に何か枷を与えないといけないと思ったんですね。なので「あるものでやれよ」と。本当は天田暦君を主人公にして、特攻隊員を演じる役者が役になりきるために本物の特攻隊員だった人を探していく過程で林さん出会い、林さんから色々なものを受け取ろうとするなかで彼自身が神風になっていく、っていうフィクションとドキュメンタリーを混ぜ合わせたような映画を作ろうと思ったんです。でも、それをやったら林さんに失礼だと思って。ところが、ありものの映像には何もない。手のアップもないし風景もない。インサートカットが何もなかった。
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