特攻計画の遂行に影響を与えた男の最後の言葉 『人間爆弾「桜花」』監督・澤田正道インタビュー
――ただただ林さんが話すシーンだけ、ですか?
澤田 ただしゃべっているか沈黙しているか、それしかなくて。ベルトランにも「これで映画ができるのか?」って言われたんですけれど、自分ならできると高をくくって、ひまを見つけてはアシスタントと一緒に編集して、1時間45分のなかなかいいバーションに収まったんだけれど、それでもちょっと長い。「1人の人間がこういう話をする時は1時間15分がベターじゃないか」と知人に言われて、1時間15分を目指したんです。1時間5分のバージョンもあったんですけれど、こっちは余韻が残らなかった。
――映画を撮る前から桜花という航空特攻兵器をご存じでしたか?
澤田 ほとんど知らなかったですね。関わるようになってから人に話を聞いたり文献を読んでやっとわかったんです。爆撃機の下部に吊るされて飛ぶっていうことが。神風特攻隊は1944年10月に宇垣大佐がフィリピン沖に送り出した霧島隊が最初ということになっているけれど、本来は海軍のエリート士官だった林さんも召集され作戦が決定した「最長の三日間」と言われている日、その時にはまだ桜花を使うというのは決定していなかったんだけれど、そのあとに桜花が完成して最初に出撃する予定だったのが10月だったんです。ところが、その時期はすでにアメリカ軍が日本の動きをみんな把握していたから、台湾に運ぶ途中に輸送船団を潰した。それで翌年3月14日、林さんの話に出てくる野中少佐が乗ったのが初めてだったんです。すでに特攻の意味はなかったんでしょうけれど、作ったからには飛ばさなきゃいかないっていうのでやったわけですね。
――作品中、林さんが話すこと以外、桜花そのものに関する情報、解説がほとんどないのですが、その理由は?
澤田 特攻についてや桜花の話はNHKのアーカイブにもあるんですよ。僕は教育番組じゃなくて映画を作りたかった。この映画で、僕は自分が体験した林さんとの時間を見ている人に委ねられればと思っているんです。映画を観ることで桜花そのものに興味が湧いたらインターネットや他のメディアで探してもらえればいいと思ったからあえて入れなかったんですよ。
■『桜花』は反戦映画でもなく好戦映画でもない
――戦争のドキュメンタリーというと、あらかじめ「反戦」がテーマになっている作品が多いと思うんです。あるいは作り手が意識していなくても、観る側が自分で無意識にバイアスをかけてしまう場合もあると思うのですが、『桜花』は、海軍兵学校を優秀な成績で卒業し、22歳の若さでありながら特攻作戦の重責を担った林さんの言葉と思いを淡々と繋げる構成になっています。林さんは天皇を慕ってもいるし、逆に、天皇や軍の方針に対しての批判も漏らしている。特攻の虚しさを吐露すると思えば、若かった当時の輝きのようなことについても話していますね。観たあとに「あなたは何を感じますか?」と問いかけられた気がしました。
澤田 反戦映画を作る人達は自分がインテリだっていうことを示したいんだと思うんですよ。インテリの立ち位置として「好戦です」っていうふうには見せられないでしょう。『永遠の0』みたいな映画になることはあるにしても、普通はみんなに反戦だっていうことを認識してもらうために作る。でも、観る前から「反戦なんだ」っていうことがわかっていたら、観る側は実際に見えているはずの別のものも拒絶しちゃうわけですよ。林さんも言っていたように、戦争当時だって男女のラブストーリーはあるし、性もある。愛も死もある。現在の日常のように、みんなあるわけじゃないですか。ただ、それがあれだけの短い期間のなかで凝縮されることが彼らにはあったけれど、僕らにはもうないわけですよ。変な意味でだけど、不幸にも僕らにはそういう凝縮されたものがなく生きてこれたわけですよね。
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2024.10.02 20:00心霊特攻計画の遂行に影響を与えた男の最後の言葉 『人間爆弾「桜花」』監督・澤田正道インタビューのページです。渡邊浩行、YAVAI-NIPPON、桜花、澤田正道、特攻隊などの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで