暴力、薬漬け、SNS中毒… 現代社会の闇を生々しくあぶりだすルイス・キレスの“直視に堪えない芸術”
イスラムに関する風刺画がテロの引き金になった「シャルリー・エブド事件」は、ショッキングで記憶に新しい。この事件は、他文化や宗教に対する風刺表現への賛否両論を巻き起こした。
■社会を鋭く風刺する作品の数々
しかし「シャルリー・エブド」のように、社会的批評を芸術に取り込もうと試みるアーティストはそれほど多くはない。その中でもスペイン人の画家ルイス・キレスは、今日の世界に対する風刺を描いたイラストで他のアーティストとは一線を画している。
キレスは作品を通して薬物中毒、検閲、汚職、性差別、暴力、児童虐待に至る社会問題、そして現在社会におけるソーシャルメディアへの強迫観念に問題を提起している。キレスの社会を鋭く風刺する作品をご紹介したい。
●安価な食品の強制摂取は、無気力で従順な人々を作り出す(The force-feeding of cheap food to the docile and lethargic public.)
●肥満に向かう人々と、飢餓に向かう人々(Obesity in one direction, starvation in another.)
米国では生活費が急激に上昇した結果、より多くの人々が低所得層に追い込まれている。そのほとんどは貧しい家族や若者たちで、彼らにはファストフードや安価で非健康的な食品しか選択の余地がない。人間がエネルギーを生み、活発な精神活動を保つには適切な栄養が必要だ。キレスは、栄養不足は無気力で従順な人を作り出すと警告する。
●SNS世代:ソーシャルメディアが人々を狂わす(“Generation Notification”;the social media crazed population.)
ソーシャルメディアは、ウェブを通じ人と人がつながる方法を変えたことは間違いない。今日、若者の多数は携帯電話、iPad、パソコンの使用に文字通り中毒症状を起こしている。ソーシャルメディアと現実との境が曖昧になり、テクノロジーと人間が物理的に結合しはじめているともいえる。今、ソーシャルメディアには終わりのないニュースフィードがあり、それを当てもなくスクロールし続けることで多くの人は時間を無駄遣いしているのではないだろうか。キレスは今後人間はこのソーシャルメディアとどのような関係を築き上げるのだろうかと憂える。
●不必要な戦争による罪のない負傷者(The innocent casualties of unnecessary war.)
一体どうして無実の一般市民を傷つけられるのだろうか。その理由は決して誰にも理解できない。戦争による荒廃した地域で育つ子どもたちは、放射能や地雷、爆撃によって手足の切断などの被害を受けることが多い。「テロとの戦争」を支持するかどうかにかかわらず、自分の国を守る名目で罪のない子どもを殺す不条理は正当化できるものではないと、キレスは作品を通じて強く主張している。
●製薬業界が国民をゾンビに変え、ゆっくりと死に導く(How pharmaceuticals are both turning a population into zombies and killing us at a not-so-slow pace.)
2009年の人口統計書によると、
・米国史上初めて自動車事故による死者数より薬による死亡が多くなった。
・薬(痛み止めや抗不安薬の過剰摂取)による死亡が3万7485人に対して、交通事死は3万6284人である。
これらの「薬」とは違法なドラッグではなく、もちろん合法的に処方された薬のことである。また米国では毎年推定45万人が有害な薬に関連する事件の被害者となっているが、これらは回避可能であったと考えられる。有害な薬物が米国の社会に及ぼすコストは毎年14兆円に近く、これは全米の心臓循環器系または糖尿病の治療コストよりも大きい。これは果たして「普通」のことなのだろうか? とキレスは問いかける。
キレスの作品には生々しいメッセージが含まれている。それらの多くは時にグロテスクで、直視するに堪えないかもしれない。そして見る者を不安にさせる。それはきっと、そこに私たちの見たくない「真実」が表現されているからなのだ。
(文=三橋ココ)
参考:「Collective Evolution」、「Collective Evolution」、ほか
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