北朝鮮版の【怪獣映画】が想像以上に素晴らしい…! 金正日が国家予算を注いだ傑作の内容とは?

■『プルガサリ』の意外な中身

 この時、スーツアクターを務めたのは『怪獣島の決戦 ゴジラの息子』(67年)などでミニラを演じた「小人のマーチャン」。現在はアウトな芸名の俳優だ。ミニラを46歳で演じていたが、ミニガサリの時は60代半ば……すごい!

 そして、インデの老いた母親が拷問で殺されたのをきっかけに不満が爆発し、一揆が勃発する。城に攻め入ったインデは、金銀を持ち出して逃げようとする郡守をついに討ち果たすが、これに怒った朝廷が一揆制圧の命を将軍に下す。農民軍は山に篭もるも、そこを包囲して兵糧攻めされてしまう。やがて食糧が底を尽き、仕方なく貴重な馬を食べる農民たち(実際に馬を解体するシーンがエグイ)

 このピンチに、チビガサリが人間の大人サイズに成長して戻ってくる。小さな角も水牛のように立派に伸び、鎧のようなボディを持った、これぞプルガサリだ(ここからスーツアクターは薩摩剣八郎にチェンジ)。

 プルガサリを味方に付けた農民軍は一気に優勢となり、敵から奪い返した大量の鉄をプルガサリにご褒美として食わせる。プルガサリはあっという間に急成長を遂げ、身長は20メートルに達する。プルガサリは、伝説のとおり不死身で、全身火ダルマにされても耐え、先が矢になっているミサイルの攻撃も「カキーン!」と鋼鉄の体で跳ね返し、巨大な穴に埋められても這い出てくる

 不死身の体を武器に、ついに宮殿へと迫るプルガサリ。攻防戦には、数千人のエキストラを動員し、圧巻の一言。だが、斜面を駆け上ってくる農民たちに対し、実際に燃えている大きな玉を何十個も転がしているため、それに当たって倒れている者をついつい心配してしまう

 両軍は一進一退を繰り返すが、プルガサリの助力で徐々に農民軍が優勢になる。「一巻の終わりだ」とよろめく弱気な朝廷陛下に将軍は、「実は史上最強の兵器があります」(早く出せよ)。それが、ライオンの形をして1発で山も灰と化す大砲「獅子砲」と、武人を象った鉄像が魚の形をした大砲を両脇に抱える連射式「将軍砲」の2門だった。

 一発逆転なるか!? と思いきや、山に向かって試し射ちをしてみると、山どころか雑草が吹っ飛んだだけ…。案の定、プルガサリには効き目なし! プルガサリが堅牢な城壁を怪力で破壊し、農民軍は城内へ一気になだれ込む。最後は、プルガサリが陛下を踏み潰して決着。ここはゴジラというよりも、石像が動き出し、悪の城主を成敗する『大魔神』(66年・大映)に近い。

 勝利の宴をあげたのも束の間、今度はプルガサリに食わせる鉄が底を突き、農具もなくなり皮肉にも圧政下と同じに状況に戻ってしまう。アミは、自らの手でプルガサリを葬る決意を固める……。

■意外すぎる封印理由

 申監督は『プルガサリ』完成後の1986年、ウィーン滞在中にアメリカ大使館へと夫人を連れて逃げ込み亡命に成功している。実は、申監督は、1978年、大女優だった夫人と共に北朝鮮に拉致されていたのだ(北朝鮮は自発的な亡命と発表していた)。監督の亡命に、烈火のごとく激怒した金正日は、全世界配給が決まっていた『プルガサリ』の公開を中止にした。

 これで作品は封印を余儀なくされていたが、日本では1995年に海賊版ビデオが出回りジワジワと需要を高め、1998年に『プルガサリ 伝説の大怪獣』という邦題が付けられ、東京のキネカ大森で公開が実現した。同年、正規版のビデオ・レーザーディスク・DVDも発売された。だが、エンドロールから申監督は外され、日本人スタッフの名前もクレジットされていない…

■天野ミチヒロ
1960年東京出身。UMA(未確認生物)研究家。キングギドラやガラモンなどをこよなく愛す昭和怪獣マニア。趣味は、怪獣フィギュアと絶滅映像作品の収集。総合格闘技道場「ファイト ネス」所属。著書に『放送禁止映像大全』(文春文庫)、『未確認生物学!』(メディアファクトリー)、『本当にいる世界の未知生物 (UMA)案内』(笠倉出版)など。新刊に、『蘇る封印映像』(宝島社)がある。
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