北朝鮮版の【怪獣映画】が想像以上に素晴らしい…! 金正日が国家予算を注いだ傑作の内容とは?

――絶滅映像作品の収集に命を懸ける男・天野ミチヒロが、ツッコミどころ満載の封印映画をメッタ斬り!

北朝鮮版の【怪獣映画】が想像以上に素晴らしい…! 金正日が国家予算を注いだ傑作の内容とは?の画像1※イメージ画像:『プルガサリ』


『プルガサリ 伝説の大怪獣』(1985年製作・北朝鮮)

 今、世界中を恐怖に陥れている北朝鮮・金正恩の父である先代の最高指導者・金正日は、生前2万本のビデオテープを所有していたといわれるほどの映画マニアだった。国民が見ると、公開処刑されてしまうハリウッド映画(脱北者の証言)を自由に鑑賞していた金正日は、『ゴジラ』シリーズや『男はつらいよ』シリーズといった日本映画も大好きだったという。そんな映画好きの金正日が、使い放題の国家予算を注ぎ込んで製作した北朝鮮版ゴジラ『プルガサリ』は、とんでもない政治的背景により、一定の期間封印されていた。

『プルガサリ』は、北朝鮮初の怪獣映画だが、初見では意外な完成度の高さに驚かされる。それもそのはず、特撮は円谷英二門下の中野昭慶、スーツアクターには前年(1984年)の『ゴジラ』でゴジラを演じたばかりの薩摩剣八郎など、世界に誇る東宝特撮の精鋭スタッフが、この撮影のために日本から招聘されていたのだ。彼らは、金正日の別荘に宿泊し好待遇を受けたという。そして監督には「韓国の黒澤明」と呼ばれた申相玉(シンサンオク)が抜擢された。作品は金日成主席の誕生日の祝賀として封切りを義務付けられていたので、北朝鮮側のスタッフは、絶対に失敗は許されない状況下、文字通り死ぬ気で製作に従事した。

■『プルガサリ』あらすじ

 冒頭、祖国の英雄・金日成(金正恩の祖父)の生誕地・白頭山の頂が映る。時は高麗王朝末期の1300年頃、貧しい農村に住む鍛冶屋のインデは、圧政を敷く郡守(朝鮮でいう郡の長官)に抵抗するレジスタンスのトップ。

 郡守は各農村から農具や釜など鉄製の道具を、武器を作るために略奪していた。これに反抗したインデと鍛冶屋の親方は捕まり拷問を受けてしまう。親方は、娘のアミが牢獄の窓から投げ込んでくれた御飯を粘土のようにこね出し、朝鮮民話に伝わる「鉄を食い、悪夢と邪気をはらうという」怪獣プルガサリのフィギュアを完成させて、獄中死する。

 親方の遺作となったプルガサリのフィギュアは、アミの手に渡った。そしてある時、彼女が裁縫中に誤って指を刺し、その血にフィギュアが触れたことで生が宿る。ちょこまかという動きが可愛く、日本では「チビガサリ」という愛称で呼ばれた。

 チビガサリはアミに懐き、鉄をポリポリ食べ、中型犬サイズに成長。官邸からインデを救出し、そのまま武器庫で鉄を食いまくり人間の子供大にと、ぐんぐん大きくなっていく。だがチビガサリは村中の鉄を食べてしまうので、次第に厄介者となり村人たちに追い払われてしまう。チビガサリは、食えない魚を川で獲ろうと試みる(涙)。

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