世界で初めて採取された謎の軟体生物がキモすぎる! 理学博士「我々の生活に劇的革新をもたらす可能性」

世界で初めて採取された謎の軟体生物がキモすぎる! 理学博士「我々の生活に劇的革新をもたらす可能性」の画像3画像は「The Daily Mail」より引用

■口がないのに、どうやってエネルギーを摂取する?

 さて、今回の論文に話を戻そう。研究チームはエントツガイを解剖し、謎に満ちたその構造や生態の一端を解明した。エントツガイには口がないことが知られていた。頭部は常に砂の中に埋まっており、他のフナクイムシたちのように木材を食べることはできない。では、何をエネルギー源に生きているのだろうか? チームは今回、エントツガイのエラの細胞に、硫化水素からエネルギーを生成できる微生物を発見した。エントツガイの消化管は極度に退化しているため、共生しているこれらの微生物を消化しているか、ないしは微生物の排泄物を吸収して生きているとみられるという。

世界で初めて採取された謎の軟体生物がキモすぎる! 理学博士「我々の生活に劇的革新をもたらす可能性」の画像4画像は「PNAS」より引用

 エントツガイと微生物のような共生関係は珍しくないとX氏は解説する。

「深海の熱水噴出孔などに棲息する生物は、硫化水素をエネルギー源とする硫黄細菌と共生してエネルギーをもらっていることがよく知られています。ハオリムシなどが有名ですね」


■フナクイムシ研究が新技術の扉を開く!

 また、他のフナクイムシでも似たような共生関係が知られているという。

「一般に、フナクイムシは名前の通り木屑を食べています。彼らはシロアリと同じく、木材中のセルロースを分解する遺伝子を持っているのに加え、エラや消化管には窒素固定菌やセルロース分解菌が共生していることが知られています。微生物に木片の消化を助けてもらい、さらに足りない栄養素を補助してもらっているというわけです」

 X氏によると、フナクイムシやその共生微生物から見つかったセルロース分解遺伝子は、バイオ燃料の製造等に役立つ可能性もあるという。

 奇妙な生物の研究は我々の知的好奇心を満たしてくれるだけでなく、シールド工法やバイオ燃料製造など、新たな技術のヒントとなって世の中の役に立つこともある。地味な基礎研究が軽視されがちな世の中であるが、何がいつ役に立つかはわからないということは心に留めておきたい。
(吉井いつき)

参考:「PNAS」、「The Daily Mail」、ほか

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