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東京都写真美術館より
7月16日まで、写真家、内藤正敏さんの展覧会、『内藤正敏 異界出現』が、恵比寿の東京都写真美術館で開催されている。
これは50年以上にわたる内藤さんの仕事を振り返る大規模な回顧展。「SF写真」と呼ばれる初期の作品群から、写真家としての決定的なターニングポイントとなった「即身仏」、そして、日本全国の霊山を撮った「神々の異界」まで、およそ200点が展示されている。
■化学の研究者から写真家へ
内藤さんの経歴は異色だ。
内藤さんの写真についての原体験は、子供の頃、親に買ってもらったカメラで撮った写真を現像するために入った暗室にある。セーフライトのオレンジ色の光の下で、印画紙の上にイメージが浮かび上がる、その呪術的な感覚に魅せられたのだという。その後、早稲田大学理工学部応用科学科に進んだ内藤さんは雑誌等で写真を発表するようになる。そして、1961年、卒業とともに倉敷レイヨン中央研究所に就職するが、1年ほどで辞職。写真家としての活動を開始することになる。
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『コアセルべーション』 1962-63年 ゼラチン・シルバー・プリント 作家蔵
内藤さんの初期作品は、専門の化学の知識をベースにしたものだった。たとえば、代表作である『コアセルベーション』は薬品の化学反応から生じた造形を複写したものだ。特殊な技法で作り出した写真はSF的で生命の起源や宇宙、時空を超えた世界を想起させる。ハヤカワ
SFシリーズの表紙イメージに多数採用されることになったことがその証左だ。
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早川書房刊「ハヤカワ・SF・シリーズ」の表紙 (写真・内藤正敏) 小松左京『復活の日』 1963-64年 作家蔵