新宿のホストが体験した本当にあった心霊話 ― 体を揺らす真紅のワンピースの女(川奈まり子の実話怪談)

新宿のホストが体験した本当にあった心霊話 ― 体を揺らす真紅のワンピースの女(川奈まり子の実話怪談)の画像2イメージ画像は「Getty Images」より引用

 そこで2人で先輩ホストに相談したところ、先輩は新人2人がいつ言ってくるか待っていた雰囲気で、「おまえらも?」と応えた。

「この店にいるホストは全員それ見てっから。夢で見るのがほとんどだけど、実際に見えるのもいるよ。霊感があると見えるらしいよ」

 先輩によると、赤いワンピースを着たその幽霊は店に取り憑いているとのことだった。常に店の中にいるのだという。

「店から出ていくことはないみたい。おまえら霊感なさそうだから、居眠りしなけりゃ大丈夫。ま、見えても平気だし。すぐ慣れる」

 鈴木さんは、そんなものかと納得した。

 幽霊だろうが不思議な夢だろうが、何べんも見せられたら慣れてしまうのは当然だと思われた。「ですよね」とカズヤもうなずいている。

「じゃあ、全然怖くないですね」

 カズヤは笑顔で言った。しかし、鈴木さんはこれには同調できなかったのだ。赤い女がこの店に憑いている理由を想像すると恐ろしかったから。

 そして、カズヤは怖くないのだろうかと疑問に思ったが、口に出すことは出来なかった。

 鈴木さんは、ホストになってから、1日が24時間ではないように感じていた。たぶん、この店が真夜中の12時に開店して朝の7時に閉店するからだろう。店で眠り込んでしまうと、余計にわけがわからなくなって、昨日も明日もない、薄暗い時間がだらだらと繋がっている心地がするのである。

 カズヤは、日増しにホストらしくなっていった。風俗嬢を追い込んで店で散財させるのが巧みになり、店の外でも貢がせるようになった。精悍な顔つきになり、近頃では、いっぱしの悪い男に見えないこともなかった。

 カズヤとは対照的に鈴木さんは入店したときから良くも悪くも変わらずにおり、自分はあまりホストに向いていないと自覚しはじめた。

 真夜中に始まって日が昇ると終わる日々にも、徐々に疲れてきた。

 昼近くなってもアルコールが体から抜けなくなり、このままではいずれ肝臓を壊すだろうと予感した。しかし酒を飲まないわけにはいかない。

――そんなある日の朝、閉店後の店内で眠っていたら、いつもとは違う夢を見た。

 自分はどこか高い所にいる。夜明けが近い薄明の空が頭上にあり、薄汚れた都会の景色が遠くまで広がっていた。足もとに目を転じると、自分がビルの縁に立っていることがわかり、はるか下にアスファルトで舗装された道路が見えた。と、思った途端に飛び降りて、真っ逆さまに墜落していく。あっという間に路面が目の前に迫り、今しも地面に衝突すると思った瞬間、耳もとで女が鋭く叫んだ。

「あんた! わかってんでしょ!?」

そこでハッとして目が覚めた。

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