性的虐待、肉親への憎悪…母娘の念で9人死んだ実話怪談! 川奈まり子の「呪殺ダイアリー」後編
「それからは、母が男を連れてくることはなくなりました。私たちは他県の地方都市でアパートを借りて3人で暮らして……なんというか、今で言う貧困家庭でしたね。高校を卒業するとすぐに独立して、独り暮らしをしはじめて、少し暮らしが楽になりました。それまでは、アルバイトしても母にお金を取り上げられていましたから」
「独立されてからは、何事もなく平穏に過ごせているのでしょうか?」
彼女が「ええ」と答えたので、この電話インタビューはこれで終わりだと私は思い、いささかホッとした。
ここまで、陰惨な児童虐待の経験談が大半を占めていた。気分が滅入ると言えば恵子さんに失礼だろうが、どうしても心に負担を感じる。それにまた、この取材は実のないものかもしれないと思い、時間が長くあるに従い焦りも感じはじめていた。呪った相手が必ず死ぬというのは確かに恐ろしい。だが、これを怪談と呼んでいいものなのかどうか、正直なことを言うと自信がない。ただの偶然かもしれないではないか?
さらに、私はだんだんと、話の内容よりも恵子さん自身が怖くなってきていた。
私よりだいぶ年下の女性で、会社勤めをしている。話し方は知的で、たいへん礼儀正しい人だ。かすかに関西訛りのある標準語。低めで柔らかなトーンの声が耳に優しく、どこにも怖がる所以など無いと思うのに。
怖い。彼女の声と口調が、悲惨な体験に比して、あまりにも抑制が効いていて冷静なので。まるで感情が無い人のようだ。
あるいは、最初から私に共感を求めていないかのよう。
人は誰しも、自分よりも下等な生き物に共感や同情を期待しない。
……もしも思うままに呪い殺すことが本当に出来たとしたら、そんな能力を持たない凡人たちを自分と同等に見做せるか、どうか。
ついさっき偶然かもしれないなどと述べておきながら、矛盾することを書くようだけれども、彼女の話には真実の手ざわりがあった。
ここには記せないが、住んでいた集落の名前や恵子さんの母が勤めていた店の名前、2番目の男が死んだ川と彼が携わっていた河川工事――それらすべてが裏取りできて、固有名詞も年代も明らかだ。
だから、もしかすると、私は「ただの偶然」だと決めつけたがっているにすぎなくて、恵子さんは嘘を吐いていないのではないかと思うのだ。
彼女の逸話がすべて真実だとしたら、私の手には余る。
いや、話ではなく、恵子さんが私の手に余る。畏怖を抱いたというより、一刻も早く、尻尾を巻いて逃げたい心地がする。
――このインタビューを電話で行ったのは正解だったな。
受話器を握る手が汗でねばついていた。両肩がずっしりと重く、背が冷えた。私はいつのまにか酷く緊張していた。
――早く終わらせよう。
「そうですか……。非常に興味深いお話を聞かせていただきました。どうもありがとうございました。では……」
「川奈さん、待ってください。まだ続きがあるんです」
「でも、独り立ちされてからは無事に暮らしていらっしゃるのでは?」
「ええ。私は無事です」
「だったら……」
「もしも川奈さんが私の立場だった場合、誰をいちばん憎みますか?」
私は少し考えた。恵子さんの不幸を招いたのは誰か……諸悪の根源は……。
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2024.10.02 20:00心霊性的虐待、肉親への憎悪…母娘の念で9人死んだ実話怪談! 川奈まり子の「呪殺ダイアリー」後編のページです。怪談、家、娘、母、実話怪談、川奈まり子、情ノ奇譚などの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで