母ちゃんが死んだ後の「俺の人生で1番タフな二月」【バンアパ原昌和・聖糞飛来通信】

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俺の友達は親父を心配して、毎日俺の家に来て親父と酒を飲んだり、遊びに連れて行ってくれたり、親父が少しでも楽しい気持ちになる様にしてくれて、とても助かった。

その友達の中に、昔っからの腐れ縁の友達がいて、そいつは職のない時に、俺の家に居候の様に棲みついていた奴で、ラーメン屋を開業しては、「破天荒過ぎる経営」を繰り返していた。

最初に開いた店は、仕込み中の火の不始末で店を燃やし、借金を残して国外逃亡し、帰ってきたと思ったら、またラーメン屋を開業し、そこでも破天荒さは変わらず、店の家賃、材料費を滞納し、挙げ句は、バイトの子達の給料も滞納する程「火の車」になっている状態で、店の売り上げ金を持ち逃げして失踪。一週間後に発見されて、自分が雇っている従業員にボッコボコに殴られ、身柄を確保された。

そんな訳で、その店も潰れてしまった。だがすぐにパトロンを捕まえて、今度は俺の家のすぐ近くの田舎にラーメン屋を開業したのだ。

各地で店を潰しては、借金も返してる様子に見えないし、俺の友達の「コンビニの店員」に、いきなり「50万円貸してもらっても良い?」みたいな事を言ってきたらしいし、金融会社のブラックリストにも入っているみたいで、相当お金には困っている感じがしたが、そんな状態でも「開業に漕ぎ着ける」というのはある意味凄まじいとは思った。

なので、さぞかし腹は座ってるかと思いきや、幽霊なんかの類は子供のように怖がって、夜の山道を一人で通る事すら出来ない様な、気の弱い一面もあって、本当にチグハグで滅茶苦茶な男なのだが、そいつが作るラーメンの味は信じられない事に激ウマなのであった。ラーメンを作ることに関してだけは、全く妥協を許さない奴だった。正しく「ラーメンを作るために生まれた」そんな男だった。

そいつが母ちゃんが死んだと聞いて、泣きながらうちに駆け付け、親父を心から心配し、仕事が終わると、うちに親父が食べる料理を作りに毎日来てくれた。

親父さんは気丈にしてるけど、本当は自殺したいくらい辛いはずだよ。だから俺が死なない様に毎日来るよ。親父さんが来るなって言っても俺、絶対来るから

と言って毎日通ってくれたんだ。どうしようもないところはあるけど、本当に優しい心を持ってる奴だなと思った。

母ちゃんが死んで一週間ちょっと経った頃に、いつもの様にそいつは夜中に俺の家に来て、親父の飯を作り、そのまま客間で寝て、朝俺の家から直接そいつは仕事に向かった。

それっきり、そいつとは連絡が取れなくなった。
そう、また失踪したんだよ。


俺たち、友達連中は心配したけど「どうせ一週間位で戻ってくるだろう」と、前例もある事だし、警察にも捜索願いを出したみたいだし、そう思っていた。

ある日、あいつの車が、俺の家を出で行った日の夜中に「家とは逆方面のの隣町」に向けて高速を走らせていた記録が警察に届いたと聞いた。あの日朝、家を出て行って夜中までは、案外、俺の家の近辺に居たという事だ。全く人騒がせな奴だと、その時も思っていた。

それから何日か経ったある日、友達から電話がかかって来た。内容はこうだった。

「今朝、あいつ見つかったって。お前ん家の隣町の山深い林道にあいつの車が停まってて、その中であいつ、死んでるのが発見されたって。足元に、酒瓶やチューハイの缶が山の様に転がってたって」

親父が自殺するんじゃないかと心配して、毎日俺の家に通ってた奴だぞ?そいつが、死んだ?

昔から、幽霊の類とか暗い所を怖がって絶対に近付かない奴が、街灯も全く無い隣町の林道に、夜中に一人で入って行って、酒を飲んで死んだ?

俺は、とてつもない違和感を感じると共に、映画「凶悪」の、あのワンシーンが脳裏によぎった。

借金を返済する為に、保険金を掛けた老人に「無理やり大量の酒を飲ませて殺す」あの恐ろしいワンシーンが。

彼のご両親は、「あの子が戻ってくる訳では無いから」と、司法解剖を断った様だ。死の真相は永遠に闇に葬られた訳だ。

しかし全く、あいつ、最後まで向こう見ずの本性を崩さずに死んでいきやがった。

僅か「十日間」のうちに身近な人間が二人消えて、みんな「キョトン」としてたよ。悲しみの感情を超えて「キョトン」と。親父にいたっては、もう訳が分からなくなって、ちょっと笑ってた。

人生で一番「タフな二月」だった。

文=原昌和

1978年10月17日生まれ。「the band apart」のベーシスト&ボーカル、作詞・作曲も担当。「the band apart」は、1998年に結成。2001年にシングル「FOOL PROOF」でデビュー。多様なジャンルの音楽を取り入れたハイクオリティの楽曲を次々と生み出している。8枚目となるオリジナルアルバム「Memories to Go」を約2年半ぶりにリリース。近年は、怪談師として活動の幅を広げている。
twitter:https://twitter.com/chinwaki
the band apart HP:http://asiangothic.org/

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