母ちゃんが死んだ後の「俺の人生で1番タフな二月」【バンアパ原昌和・聖糞飛来通信】

――the band apartベーシストで怪談師・原昌和が、自身の異常性をさらす連載コラム「聖糞飛来通信(ひじりぐそひらいつうしん)」!

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<俺の人生で1番タフな2カ月>

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2015年2月9日に母ちゃんが死んだ。
原勢津子。享年66歳。

まだ寒い時期だったので、風呂に浸かった時に寒暖の差で心臓が止まっちゃって、そのまま気を失っちゃったみたいだ。

母ちゃんは、大病(癌、脳出血)を何回も乗り越えてきたので、普通の人よりは体が弱くなってしまっていたんだろう。呆気無く死んじまった。

苦しみ抜いたりしないで、ポックリ逝っちまったみたいで、顔なんか、微笑んでるみたいで、ビックリするほど血色が良かったから「本当にこれ死んでるのか?」って思ったよ。

母ちゃんが燃やされる日まで、仏間に寝転がっている「母ちゃんの遺体」をよく眺めてた。あんな綺麗な死に顔の人を見たこと無かったんだよ。凄く気持ちいい夢を見て、微笑んでるみたいだった。

うちの親父にとっては、母ちゃんが「生き甲斐」だった訳で、流石に泣きじゃくってたけど、俺が「今日は母ちゃんと俺たちの新しい門出なんだから、お祝いしよう!」って言ったら「よく言った!」って言って笑ってくれた。流石俺の親父だ、話が早い。

それから俺と親父は、母ちゃんの遺体を挟んでニッコリ笑ってピースをしている家族写真を友達に撮ってもらった。なんつったってハッピーエンドが良いだろ? 

その日は、駆けつけてくれた友達みんなと、夜中までどんちゃん騒ぎして、親父が笑い疲れて寝流のを見送って、そのまま寝ちゃったんだ。

早朝、突然「うぐっ!うぐっ!ううううう!…」

という親父の声が聞こえて、飛び起きて声のする一階の台所に走って行くと、焼き鮭を皿に盛り付けた親父が、顔を鼻水と涙でグチャグチャにして、泣きながらおかゆを煮ていた。

「勢津子の朝飯を作っちまった…!あいつに食べさせようと思って…忘れてて…煮てる途中に…あいつ死んじゃったんだって…思い出して…なんて…なんて俺は馬鹿なんだ…!」


親父は母ちゃんの朝飯を毎日作ってたから、いつも通りの時間に起きて、無意識に朝飯を作っちゃんったんだね。一緒になって台所でワンワン泣いた。あんな残酷な光景なかったよ。

母ちゃんを燃やす日、棺に入った母ちゃんと最後のお別れをするんだけど、親父はずっと母ちゃんのほっぺを撫でてた。それを見てたらやっぱり俺も堪らなくて泣いたよ。

でも、俺は何年も前から、母ちゃんが死んだりした時に取り乱さないで親父を支えられる様に、ずっと頭の中でチュートリアルを繰り返してた。だから、なんとか冷静にその日を迎えることが出来たが、俺と親父では「悲しみの質」が明らかに違う。「人生を掛けて愛した人」が死んじまったんだからな。

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