【芸人・九月の新連載】又吉直樹『劇場』を徹底批評!”婉曲エロス”の極みを読み解く…乱視で読む日本文学
●本作を取り上げる理由は「ワナビー」
この連載企画が決まった時点で、初回には『劇場』を取り上げようと思っていました。というのも、何せ僕は現在本業だけで食えていない芸人。永田と同じ、東京に暮らす有象無象のワナビーなのです。
永田はバイト先の後輩かもしれないし、廊下ですれ違ったことがあるかもしれない。僕のことを知っているかもしれないし、いや、そうでなくとも共通の知り合いくらいは絶対にいる。多分それくらいの距離感です。
そう考えると、『劇場』の作品世界は、僕の生活世界に無理なく翻訳されます。これがまた、厭なリアリティがあるわけです。僕は主人公・永田の随所に共感と同族嫌悪を覚え、時折自分との差異を見つけては安堵しました。
加えて、僕はもともと青森県の出身です。永田のみならず、沙希とも共通点があるわけです。帰省するときは沙希と同じ新幹線に乗っているかもしれません。沙希の、好奇心のまま楽天的に東京を歩く、田舎者特有の無防備な足取りは、僕のそれと全く同じでしょう。
さらにダメ押しとして、この連載を始めること自体、作中に登場するワナビーの一人、青山が演劇の傍ら執筆業を始めるシーンと重なります。
以上のように、『劇場』は僕から見てあまりにも近い話です。
もっとも、フィクションと接するうえで「近さ」は「近さ」以上の意味を持ちません。近いから即、作品の意味が重大になることはありません。
ただ少なくとも、僕はこれから東京で生き、創作活動をし、恐らくは恋愛もしていくだろうと考えるとき、連載初回に『劇場』を取り上げることには、参照点を設定するような、東京で生きる決意をするような、何かしらの意味があると思えるのです。
以降、この記事より2回に渡って『劇場』を読み解いていきます。今回は『劇場』のうち、枠組みや仕組み、言葉や文体に注目して、ゆっくり考えていきます。それではお付き合いください。
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