【芸人・九月の新連載】又吉直樹『劇場』を徹底批評!”婉曲エロス”の極みを読み解く…乱視で読む日本文学

 読者の皆様、はじめまして。これから「乱視で読む日本文学」を連載する九月と申します。芸歴5年目のピン芸人です。

 2020年、世界は新型コロナウィルスの脅威に晒されています。皆様はお元気でしょうか。僕は今年の春、関西から上京しました。タイミング的に最悪です。完全にやってしまいました。内定していた仕事も全てなくなりました。かなり嫌なスタートです。毎日どこにも行けず、することもなく、とんでもなく暇です。

 そんな折、この連載の機会を頂けました。最高です。好きな本の話を好きなだけ書いていいなんて。飛び跳ねるほど嬉しいです。

 それにしても、「乱視で読む日本文学」とは、いかにもおいしいタイトルです。的外れなことを言おうとも、大きな間違いをしようとも、「乱視」という免罪符があるわけです。しかも、「乱視」を言い訳にして、少々自分勝手でアクロバティックな解釈をすることも可能なわけです。

 こうしていま、僕の目の前には、低いハードルと抜群の自由度があるのみです。最高です。他の人とはなるべく被らず、かと言ってあまり狙い過ぎず、てらい過ぎず、思ったことを素直に書いていきます。この連載をきっかけに、皆様が手に取る本が一冊でも生まれたならば、それが至上の喜びです。

 小学生の頃から本が好きでした。毎日、好きな本をランドセルに詰め込んで登校しました。授業も聞かずに本を読み、休み時間に友達を捕まえたら、へらへらしながら時間いっぱい本の話をしました。それで何人かに嫌われ、何人かとは友達になりました。

 ここまで読み進めて頂けたということは、あなたとは仲良くなれる気がします。これから時々、本の話をしに来ますね。友達のように聞いてくれたら嬉しいです。

●今回取り上げる一冊、『劇場』又吉直樹

 さて、連載初回に取り上げるのは、又吉直樹さんの『劇場』です。芥川賞受賞作『火花』に続く二作目。初の恋愛小説と銘打たれ、2017年に「新潮」にて発表されました。

画像は「Amazon」より引用


 舞台は東京。主人公は関西出身の駆け出しの売れない劇作家・永田。永田は演劇に対して純粋な情熱を持っていますが、コミュニケーションが苦手であること、そして捻れた自意識によって、実社会からは浮き、演劇界でも除け者にされています。そんな永田の演劇に捧ぐ毎日は、女優を志し青森から上京した大学生・沙希との出会いによって変容していく。

 山手線の主に西側。有象無象のワナビー、劇団での仲間割れ、圧倒的な天才への嫉妬。演劇で何者かになりたい若者のリアルな日常を後景としつつ、永田と沙希の恋愛の始まりから終わりまでを、主人公永田の一人称視点から描いた純文学小説です。

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