正気を失うほど不気味なスリラー映画『ビバリウム』を観て精神崩壊する理由! 監視社会、高速成長、宇宙人…感想と解釈は?

 致命的に不気味で悪趣味な映画を観てしまい、精神が崩壊した。ポスターの美しさからは想像がつかない程のストレス系胸クソ映画『ビバリウム』(3月12日全国公開)である。ホラーの帝王スティーヴン・キングが絶賛したという本作だが、あらすじはシンプルだ。

 

■あらすじ

 新居を探すラブラブカップルのトム(ジェシー・アイゼンバーグ)とジェマ(イモージェン・プーツ)は、ふと足を踏み入れた不気味な不動産屋から、全く同じ家が並ぶ住宅地<Yonder>を紹介される。内見を終え帰ろうとすると、ついさっきまで案内していた不動産屋 が見当たらない。不安に思った二人は、帰路につこうと車を走らせるが、どこまでいっても景色は一向に変わらず、内見した「9番」の家の前に着いてしまう。二人はこの住宅地から抜け出せなくなり、さらに正体不明の赤ん坊を育てる事で精神的に追い込まれていく――。

■強制的に生かされる恐怖

 タイトルのビバリウムとは「生き物の住む環境を再現した空間」という意味だ。物質感のないテクスチャで、住宅だけでなく雲までがコピー&ペーストされたように病的に並ぶ均質な郊外住宅「Yonder」は、まさにビバリウムを指している。一見すると清潔で豊かな生活なのだが、無機質で殺伐とし、閉塞感に満ちた空間だ。そんなYonderに迷い込んだ2人には、何者かが定期的に“味のない食料”を支給し、強制的に生かされてしまう。そして、「育てたら解放してやる」というメッセージと共に置かれた不気味な赤ん坊を拾ってしまうのだが、その赤ん坊は人間ではなかった。育て始めてすぐに、急速な成長を見せ、少年となった子供は、四六時中2人を監視し、2人を真似た声色と喋り方で模倣するようになる(大人の声を発する子供の不気味さたるや!)。そして空腹の度に奇声を発し、2人をイラつかせる。この子供の忌々しさは近年稀にみるほどの出来栄えで、これを観るだけでも本作を観る価値はあるだろう。


 風刺的にこの映画を観るのであれば、幼い子供を育てるという“魂を破壊する仕事”と“異物としての子供”に対するメタファーだと考えられる。男は子供に無関心で、家の前に無意味な穴を掘ることに熱中し、次第に体力を失っていく。女は子供を不気味だと思いつつも愛情を持ち始め、しかし、その子供が自分とは全くちがう人間であることを突きつけられると、恐怖に駆られてノイローゼに陥り、一見健康な夫婦関係は次第に崩壊していく。あるいは、若い住宅購入者が直面するストレスの多い日常を描いているのかもしれないし、手頃な場所で人生を落ち着かせることがどんなに悪い夢かを表しているのかもしれない。


■エイリアン侵略モノとしての解釈


 しかし、トカナの編集をしている手前、やはりここはオカルト的な視点で本作を観てみたいと思う。

 本作は、近年の息苦しい監視社会や、分断、宇宙人侵略のシナリオを描いたSF映画であるという線だ。

 冒頭で、種まき鳥として知られる「カッコウ」の托卵が描かれるのだが、托卵とは、自分の卵を他の鳥の巣に産みつけて、そのまま巣立ちまでお世話させる育て方だ。つまり、異次元から来たエイリアンが地球人に自分たちの子供を託してジワジワと地球侵略を狙うことのメタファーだと考えられるのだ。

 たしかに、不気味な少年は生物学的に明らかに「人間」ではなかった。超高速で成長率し、興奮すると喉が隆起(トラウマシーン)、ディープフェイクの如く誰の声にも似せることができた。彼は人間に似せて人類を支配するために生み出されたエイリアンで、人間の文化を“コピー”してなりすますためにやって来たというわけだ。


 究極の監視社会を描いた映画としても面白い。少年は「Yonder」の設計者である影の支配者と繋がっており、情報交換をしている。これは、普通の家族の中に、エイリアンが紛れる可能性がある恐怖の未来を描いているのではないだろうか。人間が異次元の存在の奴隷になる未来。あるいは単純に、支配者層が庶民の過程を自在に操る様子を描いているのかもしれない。

 解釈の幅の広さと話の不気味さと厄介な子供の怖すぎる演技のせいで精神が崩壊したのだが、絵面の美しさ、不気味さ、奇妙さ、神経質なまでに細かいホラー演出など見どころは多い。果たしてこれを観たあなたが正気を維持できるかはわからないが……。

 

映画『ビバリウム』は3月12日(金)TOHOシネマズシャンテ他全国公開!
© Fantastic Films Ltd/Frakas Productions SPRL/Pingpong Film
配給:パルコ
◆監督:ロルカン・フィネガン 
◆脚本:ギャレット・シャンリー 
◆出演:ジェシー・アイゼンバーグ、イモージェン・プーツ、ジョナサン・アリスほか

■映画『ビバリウム』公式サイトはこちら

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文=角由紀子

TOCANA元編集長
Twitter:@sumichel0903

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