8歳年下の男と「ダイナマイト心中」した母の写真を探して… 末井昭が語る「猫コンプレックス母コンプレックス」
前にも書いたように〈ねず美〉は保護猫で、野良の子どもだったようです。その野良の血を継いでいることを示すような光景を見たことがありました。
〈ねず美〉の子育ての一環なのですが、トカゲを獲ってきて子猫たちの前でバリバリ食べていたことがあるのです。ごはんをあげなかった訳ではありません。やはり猫缶やレトルトやカリカリよりも、自然界の生き物の方が美味しいのだろうかと思ったのですが、美子ちゃんは「こうして私たちは食べ物を調達できるんだから、人間に従わなくても生きていけるんだよ」と子猫に教えているのだと言います。そうかもしれません。確かに〈ねず美〉は、他の猫と比べれば人間に従わない猫です。
木登りも子猫たちに教えていました。やっと歩けるようになった3匹の子猫をいつの間にか外に連れ出し、庭にある梅の木に登らせようとしていました。子猫たちは地上から30センチぐらいのところで木にしがみ付いていて、〈ねず美〉は木の下でそれを見守っていました。落ちて来たら受け止めようとしていたのだと思います。
美子ちゃんは、〈ねず美〉の親がどんな猫だったのか、前々から知りたがっていました。〈ねず美〉を譲ってもらったペットショップ「ペットビルUSA」の人なら、〈ねず美〉を保護した人を知っているはずです。美子ちゃんは、〈ねず美〉を譲ってもらった頃から「ペットビルUSA」に勤めているKさんに、そのことを聞いてみようと、通りすがりに「ペットビルUSA」に寄りました。その時、何と〈キー坊〉の話が出たそうです。犬猫の写真アプリ『ドコノコ』に、〈キー坊〉の写真がアップされているらしいのです。
Kさんは、ぼくのツイッターで〈キー坊〉の写真は見ているので、『ドコノコ』の写真と顔の模様など見比べてチェックしたら、間違いないということがわかったそうです。しかも、その写真をアップした人も知っていました。我が家から割と近いところに住んでいる、猫の保護活動もされている人だそうです。
その話を美子ちゃんから聞いたので、早速〈キー坊〉の写真をコピーして、そこに短い手紙とメールアドレスを書いて、その人に渡してもらうようKさんに渡しました。するとその日のうちに、Aさんという女性からメールが来たのです(あとでKさんに聞いたら、手紙を写メで撮って送ったそうです)。
Aさんは、我が家から1ブロック離れたところのマンションの1階に住んでいて、そこには雑草が生えている庭があって、外猫が来て日向ぼっこしたり、ごはんを食べたりしているそうです。その庭で〈キー坊〉の写真を撮ったのは、昨年の11月25日だったそうです(うちに来なくなる1カ月前です)。次の日も〈キー坊〉が来たのでごはんを出したら、落ち着いた様子でしっかり食べて、それからちょいちょい顔を出すようになったみたいです(うちと掛け持ちしてたのかな?)。時々、発情期のような鳴き声も聞こえて来たそうです(うちでは鳴いたことが1回もありません)。
その庭にやって来る何匹かの猫の中に、赤ちゃんの時からAさんが付き合っている6歳のサビ猫の〈サジ〉ちゃんという猫がいて、〈キー坊〉はその〈サジ〉ちゃんを好きになったようです。〈サジ〉ちゃんから1、2メートル離れたところでじっと見つめていたり(見つめるのはお得意です)、すれ違う時にチュッとしたりするそうです(なかなかやるな、キー坊!)。
そして、Aさんはこう書いていました。
サジは手術しているので、今後何か進展することもなさそうですが、仲良しがいたらどんなに心強く楽しいだろうかと想像しています。友だちがいて、ごはんが食べられて、雨風凌げるダンボールハウス(ボロですが)があって、名前をいくつも持ってて……。ウチはキー坊くんとはまだ2カ月にも満たない付き合いで、キー坊にとってはサジがいるからやってくる場所です。キー坊の住民票はあくまでも末井家、そちらの住所が書かれてます。もしも、サビ猫のサジが遊びに行ったら、どうぞよろしくお願いします。
「仲良しがいたらどんなに心強く楽しいだろうかと想像しています」というところで、少し涙ぐみました。そしてほっとしました。誰かにいじめられているのではないか、猫狩りに遭ったのではないかなどと、悪いことばかり想像する時もありました。でも、野良の楽園のようなところを見付けたのだから、「良かった、良かった」です。ちなみに、Aさんところでは、〈キー坊〉は〈キンカン〉と呼ばれているそうです。
〈キー坊〉が来なくなってから、「キー坊、今日も来ないね」が、美子ちゃんとの朝の挨拶みたいになっていました。美子ちゃんは「キー坊は、オスとして放浪の旅に出たんじゃないかなぁ」と言っていたのですが、それがどうも当たっていたようです。
そのうち、〈サジ〉ちゃんを連れてひょっこり現れるかもしれません。
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2024.10.02 20:00心霊8歳年下の男と「ダイナマイト心中」した母の写真を探して… 末井昭が語る「猫コンプレックス母コンプレックス」のページです。往復書簡、猫と母、猫コンプレックス母コンプレックスなどの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで