「自分と“本当に同じレベルの顔”の女を見たらどうする?」精神科医・春日武彦
「自分と“本当に同じレベルの顔”の女を見たらどうする?」精神科医・春日武彦の悩み&猫と母のコンプレックス
さて再び母親との関係に話を戻しますと、わたしはこんな光景を空想してみたことがあります。20歳前後の頃でしょうか。母に向かって思い詰めたような表情で告白をするのです。オレは、本当は女になりたいんだ。せめて女装をして生きていきたいんだ、と。母は、一瞬驚いた表情を浮かべるものの、次の瞬間には頷き、ものすごく積極的な態度を示すでしょう。すぐにあちこちに連絡を取り、メイクだの服だのについて手配をするに違いありません。こういったときに、息子の性癖を恥じるとか、そういった反応は絶対にしませんね。母はメイクアップ・アーティストとか服飾関係には詳しかったし、むしろ嬉々として手筈を整えてくれるでしょう。いわゆる高級店にわたしを連れて行って、堂々と服を選ばせたりもする筈です。わたしの母はいつの頃からか買い物依存症となり、伊勢丹の外商が出入りしていたくらいですから、さぞかしゴージャスなわたし(女性版)が誕生することになったでしょう。
では父はどんな表情を浮かべるか(ちなみにわたしは一人っ子です)。淡々としているでしょうね。そういう選択肢もあるな、などと案外平然としているかもしれない。いずれにせよ、女装というテーマによって母とわたしは一気に歩み寄ることになりましょう。反目していたわけではないが、和解が訪れたような感じになるのではあるまいか。
この想像はなかなか甘美な味わいではありますが、残念なことに、それだけで終わることはありません。モノクロフィルムを装着した6×6判カメラを構えて(なぜか)ダイアン・アーバスが登場し、親子というよりは姉妹のように立っているわたしと母にレンズを向けます。そうして、星条旗を持ったパラノイアの男や、世界の端に取り残されたような表情の一卵性双生児や、ヌーディストの老人夫婦や、孤独な巨人などと同じジャンルに囲い込むべくシャッターを押す。そのようなエピローグが必ず付帯するのです。
それにもかかわらず繰り返し想像したくなるのですから、このイメージはある種の依存物質に近いのかもしれません。
ぜひ末井さんにお伺いしたいことがあります。もし母が心中を遂げたとしたら、わたしならば悲しみよりも怒りが前景に立つと思うのです。オレを見捨てやがって! オレよりもあんな男のほうが大切なのかよ! と。つまり嫉妬でしょうね。いや、母子関係と恋愛関係は文脈が違うし、ましてや(母の)自暴自棄といった要素が絡んでいるのだから、息子が怒りを示すほうが変なのかもしれないけれど、やはり敗北感に打ちのめされ、次の瞬間には逆上しそうです。そういった感情はどうでしょう。むしろ今になって余計にそんな憤怒に近い感情が湧いてくるとか、そういったことがあるでしょうか。
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2024.10.02 20:00心霊「自分と“本当に同じレベルの顔”の女を見たらどうする?」精神科医・春日武彦の悩み&猫と母のコンプレックスのページです。往復書簡、猫と母、猫コンプレックス母コンプレックスなどの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで