「人食いライオンの国」タンザニアのライオン事情を亜留間次郎が徹底解説! ライオンから見た人間は食べやすい餌だった!?

【薬理凶室の怪人で医師免許持ちの超天才・亜留間次郎の世界征服のための科学】

■ライオンに食われるリスクが世界一高い国

画像は「Getty Images」より引用


 世界で最も人間がライオンに食われている国は世界で最もライオンが多いタンザニアで、ここ半世紀での累計死者数は3000人を超えています。

 2021年現在、1万4000~1万5000頭のライオンがいると推定されていますが、セレンゲディ国立公園だけで他の国の総数を上回る3000頭が生息しています。他の国を全部足しても8000頭ぐらいしかいないので、タンザニア一国で他国の合計を上回る生息数です。世界の野生ライオンの半分以上がタンザニアにいると言っても過言ではありません。

南アフリカ:2070頭
ケニア:1825頭
ジンバブエ:1709頭
モザンビーク:1295頭
ザンビア:1095頭


 あまりにもライオンに食われる事件が多発しているので、人間がライオンに襲われるリスクがどのぐらいあるのか、統計学的な研究が行われています。

 タンザニア野生生物研究所のデニス・イカンダ博士が野生動物に殺された人間274人を調査した結果、半分以上がライオンによる被害でした。

1.ライオン 55%
2.ワニ 13%
3.ヒョウ 12%
4.ハイエナ 7%
5.象 6%
6.カバ 5%
7.水牛 2%


 ライオンに殺される人はタンザニアの総人口5800万に対して年間60人程度です。倍の人口がいる日本は年間3000人弱が交通事故で死亡していますが、日本で1年間に交通事故で死ぬ人数とタンザニアで過去半世紀の間にライオンに食われて死んだ人数が同じぐらいです。

 つまり、ライオンに殺される比率は日本で交通事故で死ぬ比率の50分の1程度に過ぎず、ライオンに殺される客観的なリスクは殺人事件や事故や病気よりもはるかに低いことになります。実際の死者数も年間で人口100万人あたり1.03人程度に過ぎません。他の野生動物を全て足しても、人口100万人あたり2人弱です。

 これは死亡原因の中でもその他に含まれるほどの小さい割合で、客観的なリスク管理から言えば無視できるほど小さい値です。実際に、タンザニアへの渡航情報で「ライオン襲われる注意」を促している外務省や観光案内はありません。

 統計的に見て、一人の人間が平均寿命まで生きたとしても一生の間にライオンに襲われる確率は1%未満にすぎませんが、ライオンに襲われた時の死傷率は66%にもなります。日本で交通事故にあった人の死傷率が約0.64%であることと比較すると、ライオンと会ったら死ぬ確率は交通事故の100倍以上です。

 滅多に会わないけど会ったら致命傷なライオンは、宝くじがめったに当たらないのに当たれば大金持ちの感覚と同じで、人間は確率が低くても当たったときの効果が大きなものを過大評価します。これは、旅客機が墜落して死ぬリスクが交通事故よりも過大評価されるのと同じ心理現象です。

 実際にタンザニアの人々を調査したところ、やはりそのリスクは現実の死者数よりも過大評価されていて、69%の人がライオンに襲われる心配をしていて、53.2%の人がリスクが高いと認識していました。タンザニア人が「死ぬリスクが高いもの」として認識しているものを上位から順番に上げてもらったところ、ライオンが5位に入るほど高いのです。現実には、人間に殺されるリスクの方がライオン以下野生動物よりも遥かに高いにもかかわらず、です。

 ライオンは客観的な統計学的死亡リスクよりも大幅に過大評価されていますが、捕食者に食われるという心理的ストレスが過大評価させていると思われます。ライオン以下の野生動物は、まだ勝てそうな気がするので比較的低いのかもしれません。

タンザニア人が考える「死ぬリスクが高いもの」

1.干ばつ
2.飢饉
3.マラリア
4.エイズ
5.ライオン
6.ワニ
7.豹
8.毒べビ
9.象
10.カバ
11.水牛


 結論。世界一多いと言っても、ライオンに殺される人は他の原因で死ぬ人と比べたら物凄く少ないのですが、人食いライオンに襲われて食われるというセンセーショナルな死に方ゆえに、一般的な認識として大勢が犠牲になっているような気がしているだけです。日本でも、「放射能で死ぬ」みたいな、現実の死亡リスクが実際は非常に小さいのに過大評価されて大騒ぎされていますが、それと同じ現象です。

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