全部当たる禁断の預言書『日月神示』を書いた岡本天明の知られざる人生とは? 黒川柚月・インタビュー

◆大本教の教祖・出口王仁三郎と天明の深い縁から神示を受ける前夜まで

 

──大本教時代の天明は何をしていたのでしょうか?

黒川 大本教時代の天明は、大本教の機関誌「人類愛善新聞」の編集長をしていて、取材から紙面構成に執筆まで全部やっていたんですよ。天明は文才もあったので、人類愛善新聞で出口王仁三郎の記名だけど、実は天明が書いた談話がいっぱいあるんです。

──天明は大本教を離脱してその後、どういった経緯で神示を降ろして自動書記が始まったのでしょうか?

黒川 1944年(昭和19年)4月18日に天明が主催する古代史研究グループで扶乩(フーチ)※の神霊実験を行ったんです。天明は、実験の審神者兼司会役を務めました。その実験で現れたのが「あまのひつく神」という神名だったんです。だけど「あめのひつく神」の神名は『古事記』『日本書紀』に登場しない。それに自動書記というのは、こっくりさんの延長線上の現象なので、天明自身も最初は低級霊だとして探す気もなかった。さらに「あまのひつく」からは皇太子を意味する「日嗣之御子(ひつぎのみこ)」が暗示されるので、当時の国家総動員体勢では官憲からの弾圧をされかねないという危険性があったんです。大本教事件で憲兵から痛い目に遭った天明だからこそ、触らぬ神に祟りなしと考えて「あまのひつく神」に関して触れないようにしていました。

※扶乩(フーチ)……中国に古くから伝わる神降ろしの占いの一種。神霊を祀った祭壇の前で、T字型になっている乩木の二股の先を2人で持って、乩木の先端を砂を敷き詰めた砂盤に置く。神霊が降りると砂盤に自動書記が始まる。

 

◆ついに自動書記が始まる!

──麻賀多神社で神示を受けて自動書記が始まる前に、そのような出来事があったとは。最初は、啓示を受けたことに天明自身も半信半疑だったんですね。

黒川 扶乩の実験から数日後、参加者の1人が、千葉県にある麻賀多神社の境内の末社に「天之日津久神社(あまのひつくじんじゃ)」があると大喜びで知らせてきたんです。それでも、天明は信憑性に欠けるとして気にもとめなかった。それから、約2カ月、戦時中の物資不足の折、ドブロクをたらふく飲ませてくれると誘われた先の印旛郡公津村に、たまたま麻賀多神社が鎮座することを知り、天明は驚いたのです。神霊に呼ばれたと感じた天明は、同年の6月10日、麻賀多神社を訪れ、そこで『日月神示』の自動書記が始まったのです。

 

◆天明の知られざる暗黒面

──岡本天明とは、どういう人だったのでしょうか?

黒川 天明とよく一緒にいた人から聞いたんですが、どこに行くにも必ず奥さんを連れて行っていたそうです。当時の考えでは、夫は外で働き、妻は家庭を守るのが当たり前だった。それが天明の場合は、常に奥さん同伴でした。当時としては、進歩的な夫婦だったんです。

──本書の中にも記されていますが、真っ赤なボヘミアンネクタイにマントを羽織ったり、チャイナ服を着たりとてもおしゃれですね。今で言うクラブみたいなダンスホールにも通ってダンスにも長けていたとか。後年の功績からは想像もつかないような、今で言う渋谷の若者みたいですよね。もともと霊感があったようですが、それがどうして霊的な世界に入っていったのでしょう。

黒川 天明の兄は知的障害があったようで、当時流行していたスペイン風邪(悪性インフルエンザ)で亡くなったそうです。天明は、そういった知的障害のある兄と実家の没落がきっかけで大本に入信し、信仰の世界に入ったようです。

──なるほど、天明は知的障害のある兄がいたのですね。

黒川 天明の生きていた明治・大正時代は、金さえあればなんとでもなったような時代です。だけど、家族の精神系の病だけは治せない。いろいろ話を聞いてみると家族に知的障害者がいるというきっかけで悩んで信仰の世界に入る人はとても多いですね。日本における心霊研究の第一人者として有名な浅野和三郎も、息子に知的障害があったようです。

 当時は社会的な成功者だった浅野和三郎が、心霊研究なんて変な方向に進ませたのは、精神的な苦悩を抱えた苦しみが、人間性から背後の精神世界探求に向かわせたのです。

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