逃げる遺体、命を救う霊…被災地に多い「不思議な幽霊話」のタイ版に驚愕


――タイ在住歴20年の私バンナー星人が、タイ社会では馴染みの深い、妖怪、幽霊、怪談、呪術、占い、迷信といったものに光をあて、日本人の目には触れることが少なかったタイの怪奇世界に皆様をお連れします。


■被災地に多い「不思議な話」

 2021年は東日本大震災からちょうど10年の節目の年となったが、いまだに見つかっていない遺体も多く、被災地では科学では説明できない不思議な話が今でも相次いで報告されている。ここタイも、2004年にスマトラ沖地震が発生した際は津波の被害が大きく、多くの人が亡くなり被災地となった。そして日本と同様、不思議な話が言い伝えられている。これらはいわゆる「怖い話」と括れないかもしれないが、死者の霊の存在が感じられる意味での“怪談”として本記事では紹介したい。

■逃げる遺体

2004年12月26日、年末ということもありタイ南部のビーチリゾートは観光客で賑わっていた。その日の朝7時58分、スマトラ沖でマグニチュード9の地震が発生。その時タイではその地震に注意を払う者はいなかったが、すでに死のカウントダウンは始まっていたのだ。地震発生から2時間半後、ついに津波がタイのアンダマン海沿岸部に到達し、津波に対して無防備だった人たちは次々に波にのまれていった。死者は5,000人近くに上ったという。

 波が引いたあとのビーチリゾートはまさに地獄絵図だった。建物は破壊され、死体がいたるところに散乱していたのだ。アンダマン海に沈む美しい夕陽と波間を漂う死体とのコントラストはこの世のものとは思えない様相であっただろう。

 遺体回収作業のために、バンコクを中心にタイ全土からボランティアチームが駆けつけた。その中には作業中に不思議な体験をした者も多い。例えば、プーケットで海に浮かぶ遺体の回収に携わっていたあるボランティアチームにまつわるこんな話がある。

 そのチームが担当したのは観光客に人気のビーチで、遺体も外国人のものが多かったという。飛行機が空から遺体を見つけ、目標地点を海上の船に知らせるという方法で回収作業が進んでいった。夕方になりそろそろ作業終了かと思われた時、空から知らせが入った。時間的にもその日最後の遺体になると思われた。指示された場所に近づくと、すぐに遺体が見つかった。髪の色や体つきからするに白人の女性のものだったが、そのお腹が異様に膨れているのが見てとれた。腐敗による膨張がすでに始まっているのだろう。

 船のデッキから海面まではおよそ2mの高さがあり、遺体回収用の道具を用いて遺体を下から掬い上げなければならない。回収作業のコツはすでに掴んでいたのだが、なぜかその女性の遺体はうまく回収することができなかった。船が遺体に届く距離に近づいたと思うと、まるで遺体が意志を持っているかのように逃げていくのだ。船の向きを変えても何をやってもうまくいかない。そうして1時間が経過。陽も沈みかけ、次が最後のトライということになった。するとボランティアチームの一人が、遺体に向かって大声で叫んだ。


「この船はタイ国の船です。あなたを本国に返してあげようと頑張っています。次あなたがまた逃げたら、二度と国に帰れないかもしれません」


 船が再び遺体に近づいてたその時。

 船に向かってきた大きな波がその妊婦を下から抱きかかえるように持ち上げ、船の方にその体を預けてくれたのだ。


こうして無事に遺体は回収された。もっとも、そのお腹が膨れていたのは腐敗のせいではなかった。妊婦だったのだ。彼女の無念を思い、彼らは船上で黙祷を捧げたのだった。

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