逃げる遺体、命を救う霊…被災地に多い「不思議な幽霊話」のタイ版に驚愕


■犠牲者の霊がボランティアの命を救った?

プーケットのすぐ北、パンガー県も津波の被害が甚大だった。バンコクのボランティアチームに所属していたティーさんと仲間8人は、ピックアップトラックでパンガーへと向かった。現地に到着したのは、すでに地震発生から3日後。そのため大部分の遺体が回収済みであったのだが、あたりにいまだ漂う死臭が、まだ見つけ出されていない遺体の存在を示していた。


 ティーさんたちの役目は、それらの遺体を探し出すことだった。漂う臭いの元をたどり、遺体を見つけるという辛い作業が続いた。そうして何体もの遺体を回収して回ったティーさんには、いまだに忘れられない遺体があるという。

 捜索を続けていると、津波によってなぎ倒された木が折り重なっている場所を見つけた。強烈な臭いが鼻を刺激する。どうやらその木の間に遺体が埋まっているようだ。木々を上から順番に取り除いていくと、女性らしい足が発見された。仲間と協力して引きずり出した女性の遺体は、どうやら口に何かを咥えている。それが何なのかがわかった時、ティーさんたちは衝撃を受けた。それはプラクルアン(小仏像を型どったお守り)だったのだ。もう助からないかもしれないと感じたその女性は、最後の瞬間、仏様の加護を求めたのだろう。

 回収した遺体はピックアップトラックの荷台にのせ、遺体安置所に送ることになっていた。遺体を荷台にのせてはおろすという作業が3日続いた。津波発生から1週間、ようやく遺体回収作業にも終わりが見えてきたので、ティーさんたちはバンコクに戻ることにした。

 ピックアップトラックの前座席にティーさんを含めた4人が乗り、残りの4人は後ろの荷台に座っていた。パンガーを出てスラータニー県にさしかかった時、事故が起きた。曲がり道でハンドルを切りそこなったトラックが、急斜面を滑り落ち、転覆したのだ。

「これは誰か死んだな」とティーさんは瞬時に思ったというが、幸運にも前の座席の4人はこれといった怪我もなく、自力で車から脱出することができた。

 幸運はそれだけではない。屋根のない荷台から放り出された後ろの4人は近くの沼に落ちたのだが、裏返しになったトラックの荷台がまるで沼に落ちた4人を守るかのように頭上におおいかぶさっていたのだ。こうして奇跡的に8人は助かったのだという。

 その後、事故現場に地元の救助班が到着して事故処理が行われた。チーム8名のうち4名は先にバンコクに帰ることになり、ティーさんを含めた残りの4名が事後処理のため次の日まで残ることとなった。救助班の手配により、ティーさんたちは近くの村落で一晩お世話になることとなった。彼らがバンコクからやってきたボランティアだと知った村人たちは、わざわざ一軒の大きな空き家に彼らの寝床を用意してくれた。おかげでティーさんたちはそこでゆっくりと身体を休めることができたのだった。

 翌朝、村人たちが庭に朝食を運んできてくれていた。その量はとても4人分とは思えないほどで、ティーさんたちは「もてなしてくれるのはありがたいけど、さすがにこんなには食べられないな」と苦笑した。そこへ、、村人の一人が声をかけた。

「他の方はまだ寝てらっしゃるんですかい」

「え? 僕たち4人しかいませんけど」

ティーさんは訳がわからずそう答えた。

 するとその村人は

「昨晩一緒にいらっしゃった方はもう帰られたんですか」と言うのだ。が、

「昨晩、村に救助班のトラックでいらっしゃった時は、たしかにもっとたくさんの方がいらっしゃるように見えた……」

 村人はそこまで言って事態を把握したのか、少し青ざめた様子で朝食を片付けはじめた。

 パンガーで回収した遺体の霊が自分たちについてきていたのかもしれない。ティーさんはそう感じながら、昨日の車の事故のことを思い出していた。あの事故で奇跡的に全員が無事だったのは、彼らの霊が我々を守ってくれたからなのだろうか。それが、遺体を見つけてあげたことに対する彼らからのお返しのような気もして、怖い気持ちどころか感謝の念さえ湧いてきたという。

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文=バンナー星人

2004年よりタイ在住。バンコクの公立学校にてタイの高校生に日本語を教える傍ら、2017年に、高野山大学院通信課程密教学修士号取得。仏教とオカルトが織りなすアメイジングなタイの魅力にとりつかれている。

Twitter : @berialshunnya

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