トラウマに悩む女が大暴走する映画『マヤの秘密』の“狂気を超えた深み”とは!? 今野杏南と阿部憲仁教授が語り尽くす!
■マヤの行為は「トラウマ克服の試み」
――これまで国内外の数多くの凶悪犯罪者と会い、分析されてきた阿部先生からご覧になったマヤは、正常なのか常軌を逸しているのか、どちらだと思われますか?
阿部 正常ですね。
今野 へえー!
阿部 ロマとして酷い差別を受けてきたはずのマヤには、3歳下の妹のほかに兄弟もいたけれど、「妹が私の人生のすべてだった」と言っていましたね。その言葉から、映画では描かれていない背景があったのだと分析します。妹とだけは心の痛みを分かち合えたと。しかも時は戦時下です。だから、一番大事な存在をいきなり取られてしまうということは、すべてを失ったことに等しい。心の支えを失うわけですから、その後もずっとマヤが苦しめられてきたのは当然の症状なのです。
それから、専門的な話ですが注目してほしいのは彼女の「コンパートメンタリゼーション」。日本語に訳すと「区画化」です。
今野 区画化?
阿部 例えば、すごくショッキングな経験があると、普通の人間は日常生活から切り離そうとしますが、それがコンパートメンタリゼーションです。マヤもコンパートメンタリゼーションをして、悲惨な記憶に蓋をしながら生きてきた。だけど、それは本当に短期間しか効かないもので、結果としてマヤは悪夢を見たり、夜眠れなくなったりするから睡眠薬を飲んでいました。あと、マヤはチェーンスモーカーでしたが、映画『ジョーカー』の主人公も、いつもタバコを吸っていましたよね。
今野 『ジョーカー』は見ました。不安を紛らわすかのように、いつもタバコをふかしているところがたしかに印象的でした。
阿部 彼も虐待からくるトラウマを抱えていて、異常にタバコを吸う行為は心の均衡を保とうとしていることの象徴なのです。
今野 なるほど……! では、この作品でマヤは加害者と考えられる人物と対峙することで、そのトラウマを克服しようと試みたということですか?
阿部 そうだと思います。誰しも、程度の差こそあれコンパートメンタリゼーションを行って生きているわけですが、本当に幸せになるためには最終的にそれらを統合するべきなのです。そしてマヤは、まさに映画の中でトーマスと対峙することで統合していこうと試みたということです。もちろん無意識の復讐という行為によってですが。特にマヤは「あの時、自分は妹を見捨てて逃げたのか? 逃げてなかったのか?」という1点をずっと気にかけていました。いわゆるサバイバーズギルトに苦しめられていたのです。そういったトラウマから回復するためには、何回も心の痛みを言葉にしたりすることでトラウマを再体験することで、自分の心の中に統合させていくしかない。
スティーブン・キングとかヒッチコックとか、ホラー作品を次々と生み出す人たちっているでしょう? あれはある意味、子ども頃のトラウマを何回も何回も作品として生み出すことで無意識に心の統合を図ろうとしているのです。
今野 ああ!すごくしっくりきます。では、ホラー作品を作っている人たちは、一歩間違えばマヤのように暴走していた可能性もあるということでしょうか?
阿部 可能性はなくはないでしょうね。たとえば連続殺人も基本的には同じ心理メカニズムですから。
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2024.10.02 20:00心霊トラウマに悩む女が大暴走する映画『マヤの秘密』の“狂気を超えた深み”とは!? 今野杏南と阿部憲仁教授が語り尽くす!のページです。対談、トラウマ、今野杏南、阿部憲仁、マヤの秘密などの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで