トラウマに悩む女が大暴走する映画『マヤの秘密』の“狂気を超えた深み”とは!? 今野杏南と阿部憲仁教授が語り尽くす!
■きれいごとだけでは生きていけない
――それにしても、マヤがトラウマ克服のために取った方法は極端だった感じもします。
今野 私も、探せば何か別の方法があったのではないかと思います。もちろん心に傷を負っているということはとてもわかるのですが、負のほうに突き進むのではなく、前向きな解決はなかったのかなと思ってしまいました。
私自身、ネガティブになっちゃうことはあるけれど、最近は悪いことを考えそうになったら、できるだけ明るい考え方を見つけようとしています。自分の気持ちが楽になるように切り替えたいと思って。
阿部 私は今野さんに対して悪意はありませんが、それはきれいごとですね!
今野 ええ〜⁉
阿部 こればっかりは、本当に悲惨な経験をした人じゃないとわからない部分があると思うのです。映画のテーマにも繋がりますが、マイナスのことがあったとしたら、実はそれを打ち消せるものは同じようにマイナスなことしかないのです。人間から受けた傷は、人間に返すしかない、という話もあります。人はきれいごとだけでは生きていけないのです。
メディアにはハッピーな人の姿ばかり映りますが、実は社会にはそこからこぼれている人たちのほうが圧倒的に多いのです。私は、そんなこぼれた人たちを救済するのが仕事です。日本の刑務所で犯罪者の面接官をやって20数年になりますが、あまり愛情を注がれて育っていない人は、マイナスなことが積み重なって、ますますマイナスの経験をしやすい。多くの犯罪者もそうで、マイナスが蓄積されて最後はボーンと爆発する。
今野 そうか……。いろいろと考えさせられるお話です。そういった面では、マヤとルイスの息子であるパトリックも大丈夫だろうかと気になりました。イライラしている両親から当たられたり、子どもなりに不快に思う場面を見たりしたので、きっと心にざわつく部分を抱えたまま大人になるのかもしれないと思います。
阿部 負の連鎖というのがありましてね。今野さんが心配しているように、パトリックはネグレクトされています。というのも、母親であるマヤが心に傷を抱え、とにかく生きるのに精一杯だからです。
今野 あれはネグレクトになるんですね。
阿部 マヤは説明もなくいきなり「あっちの部屋に行って」と言い放ったりしますが、これでは子どもは感情のやり取りをする機会を失ってしまいます。トラウマを抱えている親に育てられた子どもは「僕がいけないのかな?」と自分を責めるようになり、やがて自己否定するようになってしまいます。
■夫婦が手に入れた“真実の愛”について
――今野さんがこの作品で「ここは見て良かったな」と思う部分はどこですか?
今野 夫であるルイスの苦しみやマヤに対する愛情がひしひしと伝わってきて、家族というのはこういうものなんだなと感動しましたね。マヤが取り乱しても落ち着かせようとしたり、とにかく優しいですよね。何があってもマヤの味方であるという点は素敵だなと思いました。ただ、ルイスの“最後の行動”をちょっと理解するのに苦労しています。
阿部 あれは、つまりこういうことです。マヤがトーマスを「かつての加害者だ」と確信して誘拐してくる事件が起こるまで、マヤとルイスは夫婦であるけれど心理的に夫婦ではない状態だったのです。ルイスは、マヤの言っていることが正しいのか妄想なのか、半信半疑でしたからね。でも、最後に、あの“共通の体験”をすることによって2人は運命共同体というか、本当の意味で夫婦になったのです。
今野 そうですね。事件が起こるまでは、マヤもルイスに対して自分の過去について話していなかったですからね。
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2024.10.02 20:00心霊トラウマに悩む女が大暴走する映画『マヤの秘密』の“狂気を超えた深み”とは!? 今野杏南と阿部憲仁教授が語り尽くす!のページです。対談、トラウマ、今野杏南、阿部憲仁、マヤの秘密などの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで