もう一つの死海文書「シャピラスクロール」の謎! 発見者が自殺に追い込まれ… そこに何が書かれていたのか?
歴史的に貴重な骨董品の何割かは偽造品であるともいわれているが、かつて偽造品であると疑われ、所有者の命まで奪った宗教的古文書がある。古代ユダヤ教の実像が記された「死海文書」の発見(1947年)よりも半世紀以上前に出土した、“もう一つの死海文書”こと「シャピラスクロール」だ。
■知られざる“もう一つの死海文書”とは?
1883年、エルサレムで古物商を営んでいたモーゼス・ウィルヘルム・シャピラは、死海の近くでバラバラになった15枚もの羊皮紙の断片に記された古文書を発見したと主張した。
ヘブライ語で書かれたこの古文書をシャピラが何年もかけて解読した結果、旧約聖書のモーセ五書のうちの「申命記」の一部であり、なんと「モーゼの十戒」に追加される11番目の戒めとなる「あなたはあなたの心の中の兄弟を憎んではならない。わたしは神であり、あなたの神である」という文言が含まれているというのである。
シャピラによれば、この古文書は第一神殿の時代のものであると共にバビロン捕囚より前のものであり、聖書の最も古いテキストうちの1つであるという。
この古文書は、元が巻物であったと推測されることから「シャピラの巻物」という意味の「シャピラスクロール」と呼ばれるようになり、キリスト教史を揺るがす世紀の発見としてヨーロッパ中でセンセーションを巻き起こした。
シャピラはこの発見を確かなものとするために、何人かのドイツの学者や専門家に巻物のコピーを送ったが、専門家の誰もが即座に「シャピラスクロールは偽造されたものである」との結論を下した。
特に、タルムード(ユダヤの教義)とラビ(ユダヤの教指導者)の文学に関してドイツ最大の権威であった神学者でオリエンタリストのヘルマン・レベレヒト・ストラックは、彼を完全な贋作師であると非難した。ベルリンの王立図書館は、この偽造がどのように行われたかを研究できるように、シャピラスクロールを二束三文で購入することさえ検討したという。
多くの学者から反射的に偽書であると判断された背景には、実は偽造品の売人として悪名を轟かせたシャピラの過去があった。
シャピラは過去、ロンドンで偽の「サムソン(古代イスラエルの士師の一人)の棺」を売ろうとしたが、墓碑銘の名前のつづりが「サンプソン」になっていることが指摘されて偽造品であることが発覚。また、ベルリンの美術館に1700もの偽の置物を販売して大金を稼いだともいわれている。
そんなシャピラではあるが、シャピラスクロールには相当な思い入れと自信を抱いていたらしく、大英博物館に百万ポンドで売ろうと考えて15枚の紙片のうち2枚を同博物館で展示した。それを見ようと何千人ものロンドン市民が集まったと伝えられる。
ところが見物客の中には専門家もおり、著名な聖書学者のクリスチャン・デイヴィッド・ギンズバーグもこれが偽物であると断言した。屈辱にまみれたシャピラは、ギンズバーグに不平を訴える手紙まで送りつけている。
「あなたは、私が間違っていると公表することによって私を虚仮にしました。この恥辱を乗り切ることができるとは思いません」(手紙より)
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