なぜ我々には誕生時の記憶がないのか? 科学者がたどり着いた戦慄の最適解
自分の人生で一番最初に憶えているのはどんな光景だろうか――。出生時から乳幼児期の記憶については文学やフィクションの題材になったりもするが、我々の多くは3歳、あるいは2歳前の記憶を持っていない。科学者が「幼児期健忘」と呼んでいるこの現象について、少しずつ理解が深まってきているようだ。
■大多数にとって3歳以前の記憶はほとんどない
米ラトガース大学の「子どもの発達(child development)」に関する最初の講義で、バネッサ・ロブエ助教授は学生たちに自分の人生における最初の記憶を思い出してもらい、その内容を話してもらっている。
これまでに集められた回答には、2歳以前の記憶はほとんど含まれず、多くは3歳以前の記憶も報告していない。つまり、3歳以降の記憶がほとんどなのだが、それは自伝的であることが多く、人生における重要な経験の記憶であるケースが多かった。ある者は幼稚園の入学初日のことであったり、痛い思いをした怪我や、弟または妹が生まれた日を覚えていたりと、その時期の人生上の“一大イベント”を憶えていることが多いのだ。
それにしても、どうして3歳以前の記憶がほとんど消えてしまっているのか。専門家はこの現象を「幼児期健忘(infantile amnesia)」と定義して研究を続けている。そして、現時点で以下のようなことがわかっている。
■幼児は記憶できている
長い年月が過ぎ去った故に思い出すことができないにせよ、3歳以前の幼児や乳児にも記憶を形成することはできる。
例えば、新生児は生後数日以内に、自分の母親の顔を記憶し、見知らぬ人の顔と区別することができる。生後数カ月後にもなれば、乳児は複数のなじみの顔には笑顔を見せるようにもなるのだ。
ラトガース大学の心理学教授で発達心理学のエキスパートの1人であった故キャロリン・ロビー・コリアー氏の研究では、乳幼児が参加した興味深い数々の実験が行われた。
生後2~6カ月の乳児の実験では、研究者は乳児をベビーベッドに仰向けに寝かせ、その真上に赤ちゃん用のモビールを設置した。
ゆらゆらと動いて赤ちゃんの興味を誘い楽しませるモビールだが、このモビールと乳児の足をヒモで結び、乳児が足を蹴り上げるとモビールが動くようにあつらえた。モビールが動けば、乳児にとってそれはさらに楽しい体験になる。
すると乳児はすぐに自分が足でキックするとモビールが動くことを理解し、ヒモが足に取り付けられる前よりもキックが多くなったのだ。
生後6~18カ月の乳児でも同様の実験結果となった。乳児は親の膝の上に座り、手にレバーを握らされたのだが、そのレバーを一定の度合いまで押し下げると、部屋にある模型の電車が線路を走りはじめる仕組みになっていた。この仕組みも乳児はすぐに学習することができ、電車を見つめながらレバーを下げたのである。
実験はこれだけでは終わらず、こうして学習した内容をどのくらい憶えていられるか検証も行われた。そして収集した実験データを分析した結果、生後6カ月の時点で1分間の学習が行われると、翌日までその内容を憶えていることがわかったのだ。そして学習時間を長くするほど憶えている日数も伸び、また年長の乳児のほうが憶えている期間が長くなった。つまり、短期間ではあるものの、乳児も記憶を形成できるのである。
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2024.10.02 20:00心霊なぜ我々には誕生時の記憶がないのか? 科学者がたどり着いた戦慄の最適解のページです。記憶、脳、言語、自己意識、幼児期健忘、発達心理学などの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで