「人食い部族」の島を生き抜いたヘルマン・デツナーの秘密とは? 死ぬまで口を閉ざした男の謎に満ちた4年間

 さらに、デツナーを匿った伝道所の宣教師2人も、部隊が戦場アクション映画さながらのサバイバルをしていたわけではなく、むしろ身の危険が及ばない場所で島の動植物を思う存分研究していたと証言したのである。

 このような声が出始めたこともあり、著書の記述を検証する動きが起こり、その内容には矛盾や脱落、場所の名前の誤り、計算の誤り、そして完全な虚偽が多く含まれていることが明らかになった。結局、デツナーの描写は実際に起こった出来事して信頼できるものではなく、一種の娯楽小説のようであるとの見解が大勢を占めることなったのだ。

 多くの公的な批判の後、デツナーは話のいくつかの部分を装飾し、美化した可能性があることを認めた。しかし、具体的にどの部分が虚飾であるかを正確に言及することはなかった。

 デツナーは権威あるベルリン地理学会を自ら脱会し、世間から忘れ去られ、1970年に88歳で亡くなるまで口を閉ざした隠遁生活を送った。

 優秀で信頼の置ける実直な測量士として確固たる地位を築いていたデツナーが、ニューギニア島での経験を装飾する必要性を感じたのはなぜなのか。回顧録のどの部分がでっち上げであるかを説明していないことに何か理由があるのだろうか。

 これらの質問に対する答えが何であれ、ヘルマン・デツナーは歴史上注目すべき人物であり、第一次世界大戦と欧米列強の植民地時代の興味深いスナップショットである。晩年は何も語らずにこの世を去ったデツナーに隠されたサイドストーリーがあったのかどうか、今となってはそれを知る術はないのだろう。

参考:「Mysterious Universe」、ほか

文=仲田しんじ

場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。
興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター @nakata66shinji

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