宇宙は「ボルツマン脳」が作り出した虚構か? 我々が仮想現実空間にいる可能性が高い理由

 それは1枚のピザであるかもしれないし、1匹のアリかもしれない。しかし、我々が生きるこの宇宙について考えるならば、考える主体が必要になるだろう。そうでなければ、宇宙の存在についてこうして思いを巡らせることも不可能だからだ。この場合、より簡単なものは「意識」ということになる。

 宇宙の歴史も肉体も必要としない最小単位であるこの「意識」は、「ボルツマン脳」と呼ばれる。我々の経験や記憶は全てこの「ボルツマン脳」の中で起こっていることであり、意識の外には何も存在しないのだ。

 ボルツマン脳のアイデアは、アメリカの哲学者ヒラリー・パトナム(1926-2016)が考案した思考実験である「水槽の中の脳」とも重なる部分がある。以下が「水槽の中の脳」の概要だ。(詳しくはコチラ

「科学者が、ある人から脳を取り出し、特殊な培養液で満たされた水槽に入れる。そして、その脳の神経細胞をコンピュータにつなぎ、電気刺激によって脳波を操作する。そうすることで、脳内で通常の人と同じような意識が生じ、現実と変わらない仮想現実が生みだされる。このように、私たちが存在すると思っている世界も、コンピュータによる『シミュレーション』かもしれない」

宇宙は「ボルツマン脳」が作り出した虚構か? 我々が仮想現実空間にいる可能性が高い理由の画像4画像は「pixabay」より引用

 まとめよう。宇宙の発生・生成がランダムな確率で起こるエントロピーの増減に依存しているならば、ビッグバン→複雑な宇宙の誕生→意識の誕生といった経過を経ず、ビッグバン→意識の誕生(ボルツマン脳)という、より簡単な経過を経る方が確率的に高い。ゆえに、我々は仮想現実空間に生きるボルツマン脳である可能性が高い。

 とはいえ、カリフォルニア工科大学の理論物理学者であるショーン・キャロル博士などからは、ボルツマン脳を経験的に証明することができないと批判されており、あくまでボルツマン脳は理論的な可能性にとどまっている。

 果たして、宇宙の歴史は全てボルツマン脳の妄想なのだろうか……? 決して答えのでない問いだが、秋の夜長に思いを巡らせてみるのも良いかもしれない。

参考:「Big Think」、「New Scientist」、ほか

TOCANA編集部

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