瞼の上あたりに「洗脳のツボ」がある?サルへの実験で嫌いなものを好きにさせることに成功

■脳への電流刺激でドリンクの好みが変わる

 ニューロンによってエンコードされた値と選択行動との関係を調べるために、研究者は2つの実験を行った。

 実験の1つでは、まず最初にサルに2杯のドリンクを繰り返し提示してどれを選択したかを記録した。ドリンクはさまざまな量で提供され、レモネード、グレープジュース、チェリージュース、ピーチジュース、フルーツパンチ、アップルジュース、クランベリージュース、ペパーミントティー、キウイパンチ、スイカジュース、塩水が含まれていた。

 サルの個体にも味の好みがあるが、味に加えて量が多いことも好むので、彼らの決定は必ずしも容易ではなかった。ちなみに選択はサルがどちらのドリンクに視線を固定したかによって決められ、”希望通り”のドリンクが届けられた。

瞼の上あたりに「洗脳のツボ」がある?サルへの実験で嫌いなものを好きにさせることに成功の画像2
画像は「Neuroscience News」より引用

 次に各サルの眼窩前頭皮質に小さな電極を配置し、各オプションの価値を表す弱電流シグナルで刺激すると、ドリンクが提供されている間、眼窩前頭皮質のニューロンがより活発に活動しはじめたのだ。つまり弱電流を流すことでこのサルにはどのドリンクも好ましく感じられたのである。しかしながらもともと好きだったドリンクをより好きになったことにより、好みの傾向が変わることはなかった。

 もう1つの実験では、サルには選択を行う前に、最初に1つのオプションが提示され、次にもう1つのオプションが提示されたのだが、サルがどちらか1つのオプションを検討しているときに高い電流を流すと、その時点で行われていた価値の計算が中断され、最終的にサルは電流を流されなかったオプションを選択する可能性が高くなることが判明したのだ。

 つまり、たとえ好みのドリンクを見せられている間であっても眼窩前頭皮質の神経細胞の活動を妨害されると価値判断が保留され、何もされない状態で提示されたドリンクのほうを選ぶようになるのである。この実験結果は、眼窩前頭皮質で計算された価値が選択を行うために必要な部分であることを示している。

「この種の選択に関しては、サルの脳と人間の脳は非常に似ているように見えます。この同じ神経回路は、レストランのメニューのさまざまな料理、金融投資、選挙の候補者など、人々が行うあらゆる種類の選択の根底にあると考えています。どの仕事を選ぶか、誰と結婚するかなどの人生の主要な決定事項でさえ、おそらくこの回路を利用しています。選択が主観的な好みに基づくときはいつでも、この神経回路にその責任があります」(パドア=スキオッパ教授)

 もしも将来的に非侵襲的かつ、当人が気づかない方法で眼窩前頭皮質の神経細胞へ技術的に影響を与えることができるようになった場合、まさに“マインドコントロール”が可能になってしまうともいえる。脳活動の複雑なメカニズムが僅かながらであれ着々と解明が進められているが、さまざまな用途に適応できる技術であるだけにウォッチを怠ることはできない。

参考:「Neuroscience News」、ほか

文=仲田しんじ

場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。
興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター @nakata66shinji

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