死刑囚を苦しめる“病”とは? 連続強姦殺人犯が異常な精神状態のまま自ら望んで処刑台へ…

 死刑を宣言され、近いうちに自分の命が尽きることを知りながら独房で過ごす日々は死刑囚のメンタルにどのような影響を及ぼすのか。2005年に米コネチカット州で処刑された死刑囚は「死刑囚症候群」に罹っていたことが指摘されている。

少年時代に自殺未遂した秀才が連続強姦殺人鬼に

 1980年代に8人の女性を殺害した凶悪犯、マイケル・ブルース・ロスは1957年7月26日、米コネチカット州パットナムで生まれた。

 両親はコネチカット州ブルックリンで養鶏場を営んでいたが、家庭と親族には問題があった。母親は日常的に子供たちに暴力を振るい、叔父はロスを性的に虐待したといわれている。こうした絶望的な状況で少年時代のロスは一度自殺未遂を起こしている。

 その一方で学業は優秀で、1981年に米名門コーネル大学経済学部を卒業した。その後、保険会社の営業マンとして働きはじめると、ロスは婦女子の連続強姦殺人に手を染めることになった。

死刑囚を苦しめる病とは? 連続強姦殺人犯が異常な精神状態のまま自ら望んで処刑台へ…の画像1
マイケル・ブルース・ロス 「Daily Star」の記事より

 ロスは1981年から1984年の間にコネチカット州とニューヨーク州で14歳から25歳の少女と女性8人を殺害した。1人を除き7人を強姦した後に殺害している。

 ビビアン・ドブソンさんとキャンディス・フェリスさんという2人の女性も強姦したが、殺しはしなかった。ちなみにプレインフィールド警察は、ロスがビビアン・ドブソンを強姦した可能性を否定している。彼女たちは起訴せず、ロスも自白をしなかった。

 1984年6月29日、ロスは逮捕された。

 ロスは8件の殺人を自白し、そのうち最後の4件については有罪判決を受けた。そしてその後の1987年7月6日にコネチカット州の裁判所で死刑を宣告されたのだ。

 さらにロスは死刑囚として服役中の2001年に、1982年にニューヨークでポーラ・ペレーラさんを殺害したとして第一級過失致死罪で有罪となり、懲役8年半から懲役25年の判決を受けた。

 ロスは逮捕後に敬虔なカトリック教徒となり、自身の死刑への不服を表明し、死刑制度に反対し続けた。ちなみにカトリック教会は死刑制度に反対の立場をとっている。

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「Daily Star」の記事より

一転して自らの死刑を望む

 死刑判決が下ってからの17年後、どういわけかロスは控訴する権利を放棄し、自身の死刑判決を支持して受け入れたのである。

 どうしてこのような心境の変化があったのか。弁護士はロスが「死刑囚症候群(death row syndrome)」に苦しんでおり、心境の変化はそのためであると説明している。

 死刑囚症候群は、死刑囚が隔離されたときに経験する可能性のある精神疾患であり、死刑囚症候群の影響を受けた受刑者は、自殺や精神異常妄想を示す場合があるという。実際にロスは死刑囚の独房で3度自殺を図った。

 ロスは1日23時間一人で座って自分の恐ろしい犯罪について考え続けることの影響について語り「自分自身の苦しみを終わらせたいという願望」のために死刑を求めていることを認めたのだ。

 精神科医のスチュアート・グラシアン博士は「監禁の状況は非常に抑圧的で、希望と絶望のジェットコースターの中で耐える無力感は非常に苦痛で疲れ果てるものであり、最終的には受刑者はもはやそれに耐えられなくなり、そのとき初めて受刑者は控訴を取り下げることによってのみ、彼の運命について何らかの制御感覚を得ることができる」と説明している。

 ロスは2005年1月に薬物注射によって死刑に処される予定だったが、その時点での精神状態において責任能力が欠けているとの懸念から執行猶予が認められ、執行が延期されたのである。

 しかし最終的に裁判所はロスには責任能力があると判断し、2005年5月13日に死刑が執行された。ちなみにこの後の2012年にコネチカット州では死刑が廃止されている。

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「Daily Star」の記事より

 生前のロスに面会していた大学の同級生によると、ロスは自分は「神に赦され」ており、処刑されれば「より良い場所」に行くだろうと信じていたという。

 ロスは処刑に臨む前に許されている特別な食事メニューを要求しなかったため、その日の通常の刑務所の食事をし、最後に何か言うことはあるかとの質問に、彼は目も開かずに「いいえ、ありがとうございます」と答えたといわれている。

 獄中で3度も自殺を試みたロスのメンタルは正常ではなかったと考えられるのだろう。一説では死刑囚の自殺は一般人の10倍以上の確率で起こるといわれている。死刑制度をめぐる議論において、この死刑囚症候群もまた議題に挙げられるのかもしれない。

参考:「Daily Star」ほか

文=仲田しんじ

場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。
興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター @nakata66shinji

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