食人を扱った奇書の数々… 人食い人種の王様になった日本兵とは一体!? 驚異の陳列室「書肆ゲンシシャ」が所蔵する奇妙な本

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書肆ゲンシシャ内観(撮影/宮川マロ)

【書肆ゲンシシャの奇妙な連載】
第1回:人皮装丁本、人骨ラッパ、原爆ダーツ、死後写真
第2回:死後写真集&隠された母 
第3回:フォトショ以前のコラージュ写真と戦前の犯罪現場写真集
第4回:アートの題材となった死体写真
第5回:今では考えられない昔の医療
第6回:妊娠するラブドールに死体絵画
第7回:「見世物・フリークス」の入門書からポストカードまで
第8回:性器図鑑、変態性欲ノ心理、100年前のスパンキング写真集
第9回:超激レア本から学ぶ“切腹女子”たちの歴史

「驚異の陳列室」を標榜し、写真集、画集や書籍をはじめ、5000点以上に及ぶ奇妙な骨董品を所蔵する大分県・別府の古書店「書肆ゲンシシャ」。

 地方都市のいち古書店ながら、店主の藤井慎二氏が独特の選書眼でコレクションした本などを紹介するTwitterアカウントは12万フォロワーを誇り、今や全国から老若男女のサブカル好きが同店を訪れている。

 本連載では、1時間1000円で店内の本を閲覧でき、気に入った本はその場で購入することもできる、「書肆ゲンシシャ」が所蔵する奇書・珍書の数々を紹介していきたい。

人肉で一番うまい部位はどこか?

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『食人全書』(原書房)

――この連載も10回目に突入です。今回は書肆ゲンシシャで定番人気と思われる、「食人ジャンル」に切り込みたいと思います。

藤井慎二(以下、藤井):食人に関する“最初の1冊”としては『食人全書』(原書房)という本をオススメしています。著者のマルタン・モネスティエは、さまざまな全書シリーズを出しているジャーナリストです。『死刑全書』や『奇形全書』、マイナーなところだと『動物兵士全書』なんかもありますね。あらゆるジャンルに通じていて、これまで原書房という出版社が、彼の全書シリーズを翻訳し続けてきました。

――そんな全書シリーズがこの世にはあるのですね……。『食人全書』にはどのようなことが書かれているのでしょうか?

藤井:古今東西“食人にまつわるエピソード”が、コンパクトにまとめて紹介されています。図版も豊富に使われているところが、この全書シリーズの良いところです。主な人食い人種の分布を示した19世紀の地図や、「ピアニストの指添えすね肉」、人間の皮膚の手袋など、一見するとグロテスクな写真もガンガン載っています。有名なロシアの飢饉で共食いした人々の写真もありますね。

――バイクに乗っている人の写真もあるので、かなり最近の事例も載っているんですね。これは東南アジアの写真ですか?

藤井:そうです。1999年の写真みたいですね。「ダヤク人は切断したマドゥレ人の頭部を戦いの儀式の際に食べる」とキャプションにはあります。

――調べてみると、ダヤク人はボルネオ島の先住民らしいのでインドネシアですね。

藤井:詳しい内容は実際に読んでみてからのお楽しみですが、最終章には「産業化・組織化された食人 21世紀の食糧難に対する答え」という、なかなか興味をそそられる論説が載っています。

――ちなみに、最近サイゾーの映画レーベル・エクストリームが配給した、ルッジェロ・デオダート監督による名作モキュメンタリー映画『食人族』の4Kリマスター版がまだまだ上映中です。

藤井:そういえば、以前うちに来たお客さんも「『食人族』が大好き」と言っていましたよ。

――いつも思いますが、殊更に特殊なお客さんが多いですね……。

藤井:食人族について書かれた本の話を続けますね。『私の父は食人種』(文藝春秋新社)はスウェーデンの探検家であるステーン・ベルイマンがニューギニアへ行き、そこで食人族の養子になるというルポルタージュです。全編モノクロですが、祖先の頭蓋骨を置いている食人族といった写真はインパクトが強いですね。どうやら、この人たちは頭蓋骨を枕にしているようです。

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『私の父は食人種』(文藝春秋新社)

――身近なところに頭蓋骨がある文化ということですね(笑)。

藤井:実際にベルイマンの義父になった人物の写真も載っています。彼に人肉について「どこが一番うまいか」という質問をしたところ、「私は股肉が一番うまいと思う。股肉は本当の食い物だから」と答えたそうですね。

――ちょっと、深すぎて意味わかんないですね……。

藤井:そんなエピソードが満載ですよ。

実際のカニバリズム事件を扱った本

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『カチン族の首かご―人喰人種の王様となった日本兵の記録』(文藝春秋新社)

藤井:『カチン族の首かご―人喰人種の王様となった日本兵の記録』(文藝春秋新社)という本も紹介したいです。これは第二次世界大戦中、著者の妹尾隆彦氏が日本兵の一員として東南アジアに出征し、そこで「食人族の王」になったという話です。

――にわかには信じられないですけど、タイトルのまんまの内容ですね。

藤井:「遂に蛮族の王となる」という章で、即位式の手順を書いています。まず、悪魔払いをして、承認宣言や憲法発布があったと本には書いてありますね。ちゃんと、憲法の条文まで載せています。結局、彼は帰還命令が出て、日本に帰ってしまいますが。

――蛮族の王をやめて帰国(笑)。

藤井:本には妹尾氏本人の写真も載っています。

――「蛮族の王」という雰囲気ではないですね。こんなこといちいち言うのも野暮ですが、留意点として僕ら本の内容の真偽までは関知しないというスタンスは崩さずに進めていきましょう。

藤井:それでは、実際のカニバリズム事件を扱った本に移りましょう。「ひかりごけ事件」というのをご存じでしょうか? 遭難した船の船長が船員の少年の人肉を食べて生き延びたというものです。

――個人的に武田泰淳が好きで小説の『ひかりごけ』を読んだくらいです。

藤井:『ひかりごけ』はあくまでも事件を題材にした物語ですが、ここでは『裂けた岬』(恒友出版)という本を紹介したいと思います。ジャーナリストの合田一道氏が、船長に取材を続けて、限りなく真相をまとめています。

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『裂けた岬』(恒友出版)

――初版は1994年のため、これまで紹介してもらった書籍に比べると、最近の本になりますね。といっても、30年前ですけど……。

藤井:本書には実際に船長が少年の屍を食べて一冬過ごした番屋、食べられてしまった少年の人骨と皮膚の写真が掲載されています。

――生々しい写真ですね。

藤井:もうひとつ、食人事件ではアンデス山脈に飛行機が墜落し、乗組員が人肉で生き延びたという「ウルグアイ空軍機571便遭難事故」も有名で、同事件を取り扱った書籍も複数あります。

――1993年に『生きてこそ』という映画にもなった事件ですね。

藤井:『彼らは人肉で生きのびた:アンデス―16人の全証言』(双葉社)には「カニバリズム(人肉嗜食)の残骸」とする写真や「マニキュアのしてある女性の手が雪から突き出ているところを踏みつけた。その手は掌の肉と前腕部の肉がちぎり取られていた。体から切り離された肢や頭蓋骨その他の体の一部も見つけた」という生々しい記録が残されています。本の冒頭には飛行記録、乗員、乗客名簿まで付いていて、この本もまた資料が充実しています。

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『彼らは人肉で生きのびた:アンデス―16人の全証言』(双葉社)

「パリ人肉事件」の佐川一政が描くマンガ

藤井:誰もが知る食人事件といえば、佐川一政の「パリ人肉事件」でしょう。この事件に関しても、さまざまな本が出ていますが、コリン・ウィルソンの『狂気にあらず?! 「パリ人肉事件」佐川一政の精神鑑定』(第三書館)は別格です。冒頭から佐川さん宅の冷蔵庫に入っていた人肉がのっている皿、血の跡が生々しい現場のアパートの部屋の写真などが多数紹介されています。

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『狂気にあらず?! 「パリ人肉事件」佐川一政の精神鑑定』(第三書館)

――うわぁ……。人の肉がきれいに小分けされていますね。

藤井:やっぱり想像するのと、実物を写真で見るのとでは、全然違いますよね。殺害された恋人の遺体の全身写真も載っていて、それを見ると、どこが重点的に食べられたのかが、よく分かります。

――足の太ももがごっそりないですね。警察の現場写真っぽいですが、ここまで被害者の写真を世に出しても大丈夫だったのでしょうか……?

藤井:そうですよね。以前、この本をゲンシシャのTwitterで紹介したことがあったのですが、Twitter側から「削除しなさい」という通知が届きました。

――ショッキングな写真には違いないですからね。

藤井:佐川一政についてはTOCANAで復刻された、『まんがサガワさん』(オークラ出版)も忘れてはいけませんね。初版はカバーを取ると実際の人肉の写真が載っています。

――さすがにTOCANAといえども、復刻版での部分は削除しましたが、『ガロ』風タッチの狂気のマンガです。

藤井:佐川一政はまんだらけ出版から『漫画サンテ』というハードカバーのマンガも出しています。同作はあまり有名ではありませんが、『サンテ』(角川書店)を原作にしているため『まんがサガワさん』より文字が多めで、限定800部。さらに彼の直筆原稿が付いてきます。

――果たしてその需要はあったのでしょうか……。

藤井:作中ではサンテ拘置所の独房に入ったときのことが描かれていて、取調室での出来事を描いたイラストには「肉はたくさんです」というセリフが書いてあります……。彼の直筆原稿は、基本こういうテイストですね。

――直筆原稿が付いていない中古本は、メルカリでも売られています。ただ、なんか不快ですね、この軽薄なノリは……。

藤井:そうでしょうね。「食人」というのは、ゲンシシャでは若い女性を中心に人気のジャンルなのですが、佐川一政の本を紹介しても「読んでいて腹が立つ」という声が多いです。

――そうなりますよね。

藤井:以前、佐川一政が描いた油絵がヤフオク!に出品されているのを見かけましたが、オークション開始時は10万円スタートだったのですが、誰も入札しなくて4万円で落札されていましたよ。

書肆ゲンシシャ 大分県別府市にある、古書店・出版社・カルチャーセンター。「驚異の陳列室」を標榜しており、店内には珍しい写真集や画集などが数多くコレクションされている。1000円払えばジュースか紅茶を1杯飲みながら、1時間滞在してそれらを閲覧できる。
所在地:大分県別府市青山町7-58 青山ビル1F/電話:0977-85-7515
http://www.genshisha.jp

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文=伊藤綾

1988年生まれ道東出身。いろんな識者にお話うかがったり、イベントお邪魔したりするのが好き。サイゾーやSPA!、マイナビニュース、キャリコネニュース等で執筆中。友人や知らない人と毎月1日に映画を観る会(@tsuitachiii)を開催

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