コスパ最強の「無毛ニワトリ」が食肉業界の救世主になれなかった意外な理由とは?

 食べられることが運命づけられている家禽だけに、最も効率よく育てられればそれに越したことはないだろう。そのような人間の都合だけで誕生したのか思わずギョっとしてしまう見た目の“無毛ニワトリ”だ――。

低コストでの食肉生産を可能にする“無毛ニワトリ”

 ビーフやポークよりもチキンが好きだという人は少なくない。特にフライドチキンやからあげは老若男女を問わないポピュラーなフードメニューである。

 多くのファンに支えられた手軽で美味しいチキンのメニューを実現させているのが食肉のために特化して品種改変されたブロイラー種の存在だ。

 ブロイラー種は遺伝的により多く食べ生育が早い。心拍数は毎分最大300拍にも及び、体重の増加も早いため食肉産業には好都合なのだが、そのぶん基礎代謝が高く体温も高くなる。

 夏場や暑い気候の地域でブロイラーを飼育するには飼育施設内の気温を適切に保つための空調システムが必要とされるが、当然ながら電気代のコストが跳ね返ってくる。

 そこであまりコストをかけずに飼育環境をを涼しく保つためのより経済的な解決策として登場したのが“無毛ニワトリ”である。体表に羽毛がなければ熱の放出が早く単純に体温が上がりにくくなる。

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画像は「YouTube」より

 この“無毛ニワトリ”を生み出したのはイスラエルの遺伝学者であり家禽育種の専門家であるアヴィグドール・カハナー氏だ。

  多くの人は彼が不自然で非倫理的なゲノム編集を行ったのではないかと推測しているが、カハナー氏は首に羽毛のない品種と通常のブロイラー鶏を選択的に交配させ、それを何度も繰り返して“無毛ニワトリ”を生み出したと主張している。「これは遺伝子組み換え鶏ではなく、その特徴は50年以上も前に遡る天然ニワトリです」とカハナー氏は説明する。

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 2000年代初頭に作られたアヴィグドール・カハナー氏の“無毛ニワトリ”は、その珍しい外観はもちろんのこと、飼育コストの削減、成長速度の速さ、高温に耐える能力、そして食肉加工のしやすさで当初多くの注目を集めた。この“無毛ニワトリ”が低コストでの食肉生産に直結していることは明らかだ。とはいっても現在、“無毛ニワトリ”は普及しているとは言い難いマイナーな存在である。いったいどうしてなのか。

なぜ普及しなかったのか?

 この珍しい見た目の“無毛ニワトリ”にあるのは良いことばかりではない。羽がないため、寄生虫、蚊の攻撃、皮膚病、日焼け、温度変化などに脆弱になる。ニワトリは身体の動きのバランスを保つために羽ばたくのだが、それができないので“無毛ニワトリ”のオスは交尾時に苦労することになるという。

 こうした欠点はあるものの「Oddity Central」の記事によれば“無毛ニワトリ”が誕生以来20年間にわたって実際に普及しなかった主な理由は、人々がその「不自然な」見た目に慣れることができなかったためであるという。

“無毛ニワトリ”を「気持ち悪い」や「病んだサイエンスの一例」と形容する人もいれば、普通のニワトリでも飼育施設の中で十分苦しんでいるのに、怪我から守る羽がなければさらに苦しめることになるとして、このような忌まわしいニワトリを作る必要はないと倫理的に主張する人もいる。

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 農業専門誌「Agriallis Magazine 」の調査で“無毛ニワトリ”に対して消費者はホルモン剤の使用に対する恐怖や、健康への影響に対する懸念を抱いていることが明らかになった。こうした事実により“無毛ニワトリ”は「成功しないだろう」と結論づけている。

 確かにややグロテスクな見た目の“無毛ニワトリ”を食べることに抵抗を感じるのは無理もないことだろう。しかしその一方で昨今の食材費の高騰は関連業界と消費者には大きな痛手にもなっている。ご存じのように鳥インフルエンザの影響でタマゴの品不足と価格高騰という現実にも直面している。“無毛ニワトリ”が再び注目を集める条件は案外揃っているといえるのかもしれない。

参考:「Oddity Central」ほか

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文=仲田しんじ

場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。
興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター @nakata66shinji

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