終末時計が世界に大惨事を警告? 真夜中まで90秒を指す理由はここにある

 今年も残り少なくなったが、実は2023年は1947年以来、最も“終末”に近づいた年であった。とすれば残り僅かな年内も気が抜けない日々となりそうだが――。

■終末時計の針は「残り90秒」

 1945年にアメリカで設立された「Bulletin of the Atomic Scientists(原子力科学者会報)」は、その2年後に人間の技術によって引き起こされる地球規模の災厄に対する世界の脆弱性を示す指標として「終末時計(Doomsday Clock)」を設定し毎年更新している。

 終末時計では午前0時が“終末”の時であり、針が0時に近づいているほど地球が居住不可能になる大惨事が近づいていることになる。

 終末時計の基本的なコンセプトは、冷戦時代の超大国であるアメリカとソ連の間で全面核戦争が起こる可能性に対する懸念の表明であった。

 1947年、当初の設定は午前0時まで7分であった。1953年にアメリカとソ連の両国が、より破壊力の高い新しい水爆実験を行ったとき、終末への時間はわずか2分にまで接近した。しかし冷戦の間は時計がこれ以上進むことはなかった。

「Wikipedia」より

 1970年代初頭からの緊張緩和(デタント)や軍縮の動きの中で針は少しずつ戻され、ソ連が崩壊して冷戦が完全に終了した1991年には終末時計の針は残り17分と1947年以降のどの時点よりも0時から遠く離れたのである。

 冷戦終了後は気候変動やパンデミックの脅威なども反映されるようになり、さまざまな“終末シナリオ”が検討されるようになっている。

 そして今年の2023年1月24日、終末時計の針は「残り90秒」に更新された。1947年以来、最も終末に近づいた年となったのだ。

 2021年と2022年は共に「100秒」で、その時点では最接近の時刻であったが、2023年にさらに10秒進んだことになる。これはやはり第一にはウクライナでの戦争が終わらないことにある。

 ロシア軍が局地戦において大敗北を喫しそうになった場合、戦術核兵器を使用する可能性が昨年よりも高まっていることが“10秒”の短縮に繋がったとみられる。

画像は「YouTube」より

■終末時計は“予言”ではなく“警告”

“終末”へ向けて針が進むのは核兵器のリスクだけではない。以下のリスクも大いに懸念されている。

「IFL Science」の記事より

●気候変動
 ウクライナ侵攻によって生じた地政学的な亀裂は、気候変動に関して協力しようとする世界の意志を弱め、広範な多国間協力に対する信頼を損なった。

●生物学的脅威
 国際社会は感染症の発生を予防し、発生時に迅速に検出し、その範囲を制限するために効果的に対応する能力を向上させる必要がある。

●破壊的テクノロジー
 AI(人工知能)の活用が進む一方で偽情報からドローンに至るまで、破壊的テクノロジーによる潜在的な脅威が報告されている。

 残りわずかになった2023年の世界は終末時計的には最も危機的な年ということになるが、終末時計が示すのは決して“予言”ではなく“警告”である。この“警告”をそれぞれが正面から受け止め周囲と協力して対策を講じれば大惨事を回避できると信じたい。対話のチャンネルを常に開き、国際規範や制度が機能停止に陥ることがないよう尽力し終末時計の針の進みを食い止めたいものである。

参考:「IFL Science」、「Bulletin of the Atomic Scientists」ほか

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文=仲田しんじ

場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。
興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
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