新種の性「デミセクシャル(半性愛)」とは? 性欲が“ないのにある”状態……
本記事は2017年の記事の再掲です。
画像は「Daily Mail」より引用
セクシャルマイノリティー(性的少数者)の認知が世界中に広まる中、いわゆるLGBTにおさまりきらないセクシャリティを持つ人々の存在も徐々に明らかになりつつある。この度ご紹介するのも、性的欲求を持つとも持たないともいえない「デミセクシャル」と呼ばれる新たに発見されたセクシャリティだ。
■性愛者でも無性愛者でもない「デミセクシャル」とは?
オンライン俗語辞典「Urban Dictionary」によると、デミセクシャル(demisexual、半性愛)とは、性愛者(sexual)と無性愛者(asexual)の中間(demi)にある性的アイデンティティだという。2008年ごろ、アセクシャルコミュニティ「The Asexual Visibility and Education Network」がその存在を指摘して以来、欧米で徐々に認知されてきたそうだ。
デミセクシャルの人は、しばしば、他者に対して性欲や恋愛感情を抱かない、いわゆる「Aセク」(無性愛者、asexual)と同一視されてきたが、半性愛と呼ばれるように、完全な無性愛というわけではなく、時には強い性的欲求を持つという。ただ、男女関係なく他者との強い心理的繋がりを感じない限り、相手に対し性的欲求が生じないということだ。つまり、基本的には性欲を持たないが、心理的繋がりを感じるトリガーが引かれることで、性的欲求が生じるという。
だが、これは極めて“普通”ではないだろうか? むしろ、とっかえひっかえ誰とでも寝るような人物の方が“異常”であり、社会的には愛情と性的欲求は重ねあうべきだと思われているのではないだろうか? 一体、デミセクシャルのどこが“普通”ではないのだろうか?
■誤解されるデミセクシャル
自らをデミセクシャルと自認する匿名の人物が、「The Asexual Visibility and Education Network」に、デミセクシャルを他人に理解してもらうことの難しさを語っている。(8月28日付の英紙「Daily Mail」から引用)
「私が自分のセクシャリティがどのように記述されるか知ったのは、つい最近(先月ぐらい)です」
「ここ1年半~2年の間、私は自分がバイセクシャルかアセクシャルではないかと思っていましたが、どちらもしっくり来ませんでした。それに、5年ほど異性との関係を続けており、性自認と実際のセクシャリティが噛み合っていなかったのです」
「最大の心配事は、親しい友人が私のセクシャリティを理解してくれていないのではないかという点です。つまり、会った人と誰とでも寝ることを嫌うのは普通のことだと思われ、デミセクシャルを正しく理解してもらえないのではないかという恐れなのです」
一見して、“普通”とされているヘテロセクシャル(異性愛)とデミセクシャルは変わらないように見えてしまうが、会った人と誰でも寝ることは嫌いだが、性欲が生じることもある(普通)と、会った人と誰でも寝ることは嫌いであるのは性欲が湧かないから(デミセクシャル)というように、根底にあるものは全く別物だということだ。そして、この見かけ上の類似がデミセクシャルの人々を苦しめることにもなっている。たとえば、「Urban Dictionary」に掲載されている2人の人物の会話は、この人物の恐れを的確に表現している。
A「私はデミセクシャルなんだ」
B「何それ?」
A「相手と強い繋がりを感じないと、性的欲求を感じることができない人のこと」
B「それはラベル付きの単なるヘテロだろ。君は自分を特別に見せたいんだな。それに、君が正しくて、そんなセクシャリティが本当にあるとして、君は全ての異性愛者がビッチだと言うわけ?」
A「性的欲求を感じることができないことと、誰とでも寝ようと思わないことは違うよ……。少し考えてから喋って」
海外掲示板の「Reddit」でも、デミセクシャルだと自認する女性が苦しみを訴えている。
「他人との性的な関係に巻き込まれるという恐れから、人付き合いを避けていました。だけど、家に帰るとすぐに、誰かと関係を持ちたいと思うのです。そして、性的な感情を自分自身に向けていました。しかし、誰かが私に対し恋愛感情を持っていると知ると、深い不安に襲われ、他人と関係を持つことを躊躇させたのです」
■デミセクシャルが分かり辛い理由
デミセクシャルの他にも、「グレイアセクシャリティ」と呼ばれるスペクトラム状のセクシャリティの存在が徐々に明らかになりつつあるという。LGBTが世界的に広く認知されてきたが、よくよく考えてみると、ここに含まれているのは性志向であるLGB(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル)と性自認であるT(トランスジェンダー)だけであり、甚だ不完全であることが分かる。
デミセクシャルは相手との関係性において生まれるセクシャリティなので、性自認(自分が男か女か)とも言えないし、性志向(男が好きか女が好きか、両方が好きか)とも言い難い。この問題は、LGBTの設定があまりにも実体論的であり、関係性を考慮に入れていないことに起因するのだろう。先述したAさんとBさんの会話からも分かるように、LGBTという概念を知っていたとしても、むしろそのことが足枷となってデミセクシャルの理解が難しくなる場合さえあるのだ。
あるいは、デミセクシャルはLGBT全てに重ねられるとも言えるだろう。つまり、デミセクシャルの人はどんな性自認でも性志向でも取りうるということだ。たとえば、性自認・男、性志向・男女のバイセクシャルの人物が同時にデミセクシャルであることは可能であるように、どんな組み合わせでも同時にデミセクシャルであることは可能だ。
また、自身をアセクシャルだと認識している人物も、「潜在的には“実は”デミセクシャルであった」という場合もあるだろう。それは、デミセクシャルの人が、相手との心の繋がりがどの程度深まれば性的欲求が生じるか分からないからだ。潜在的にはデミセクシャルだったが、生涯にわたって、デミセクシャルになるまでの人との深い繋がりを構築できなかったアセクシャルの人もいると想像できる。
人の性愛とは、かくも複雑なのである。とてもヘテロ+LGBTだけで説明のつく単純なものではない。未だ認知されていないセクシャリティに悩む人々もまだまだいるはずだ。今後、さらなる多様なセクシャリティを認めていくためには、セクシャリティの概念そのものの拡張が必至となってくるだろう。
参考:「Daily Mail」、「The Asexual Visibility and Education Network」、ほか
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