火葬場にヤクザが来て…元火葬場職員・下駄華緒インタビュー
※本記事は2020年の記事の再掲です。
下駄華緒さんはミュージシャン、作家、怪談師など数多くの顔を持つ。下駄さんは、火葬技士1級を持ち、火葬場、葬儀屋で働いた経験がある。雑誌『本当あった愉快な話』(竹書房)では『最期の火を灯す者』という火葬場での体験を元にした漫画の原作を書かれている。
今回はそんな下駄さんに『火葬場にヤクザがやってきた』時の話を伺った。
「最近では暴力団お断りの飲食店も増えましたが、もちろん火葬場はそういうわけにはいきません。ただ最初に言っておきたいのは、暴力団の人たちは統率がとれた良い人たちが多かったですね。
むしろ一般の家族でも、お骨上げの際に、親族間で喉仏(第二頚椎)の奪い合いでケンカになったりすることがあります。暴力団の人たちはそういうことはありませんね」
ただ、かなり特殊な雰囲気で火葬をした場合もあるという。
「まず、お見えになった人たち全員が怪我しているんですよ。松葉杖の人、ギプスしてる人、車椅子に乗っている人などなど」
どう見ても暴力団同士の抗争の後なのだ。抗争で亡くなったのは、組長だったようだ。
「炉に入れる時、
『おじきー!! カタキはとったるからな!!』
って叫んでるんですよ。おじきって本当に言うんだって驚きました」
火葬が終わってお骨上げがはじまる。先程少し触れたように、日本人はお骨に執着がある。特に仏が結跏趺坐しているように見える喉仏(第二頚椎)を大事にする。
ただ、病気などで骨がもろくなった人は、喉仏がきちんと残らない場合もある。
「喉仏がなかったら殺されるんじゃないかな? と思ってドキドキしながら、お骨上げをしました。抗争で亡くなるまでは元気だったためにしっかりと喉仏が残っていました」
ホッと安堵した後に、
「お骨上げさせていただきます」
と言うと、おそらくナンバー2なのであろう恰幅の良い松葉杖をついたおじさんが
「兄ちゃん喉仏どこやあ?」
と叫んだ。
下駄さんは、喉仏を手のひらにのせて、
「こちらでございます」
と言う。ナンバー2は
「おう、みんなによう見えるようにしたれ!!」
と指示した。
「ぐるっと骨を見えるようにしたら、皆さんが口々に
『おお!! すげえ!! おじき!! 残りよった!!』
って声を上げました」
そしてお骨を骨壷に納める儀式なのだが、まず説明すると、関東と関西では方式が違う。関東では、全収骨といって体中全ての骨を骨壷に入れることが多い。関西では、部分収骨と言って身体の一部分の骨だけを収骨し、後は火葬場で供養してもらう。
たとえば、下から足の指、くるぶし、大腿骨の一部、喉仏、を入れ頭蓋骨で蓋をする。そんな説明を下駄さんがしようとしていると、ナンバー2が大きな声で仕切った。
「おじきを入れんかい!!」
そう発破をかけられた、若い衆は慌てて箸でおじきの骨を骨壷に収める。
その若い衆の顔に、ナンバー2が持っていた松葉杖がめり込んだ。
「グシャアってすごい音がしました。
『おじきは強い人やった。そんな小さい骨を入れずに、でかい骨を入れんかい!!』
って怒鳴るんです。若い衆はみんな
『はい!!』
というしかありませんね」
小さい骨を入れたら殴られてしまうから、若い衆は大きい骨をドンドン骨壷に詰めていった。関西の骨壷は小さいため、もちろんはみ出てしまう。
野菜スティックか、マクドナルドのポテトか、そんな感じになった骨壷を前に、ナンバー2は
「兄ちゃん、これでやったってくれや」
と言った。
「どう断ったらいいか、本当に迷いました。頭をフルに使って
『申し訳ございません。故人さんはものすごい身体が強くて、骨壷には収まりきらないくらいの方です。でもこの骨壷、最後には蓋をしめなければなりません。皆様の力でこの骨壷に収めていただけませんか?』
と言いました。我ながら完璧な答えだったと思いました」
しかしナンバー2は、「チッ」と小さく舌打ちした。骨壷を反対にして、おじきの骨を再び台の上に出した。
「お前ら、やり直しや!!」
と言った。
「このタイミングしかない!! と思って、
『お体をまんべんなく収めたいので足もとからお願いします』
と説明させていただいて、やっと普通のお骨上げになりました」
やっとお骨上げが終わりホッと胸を撫で下ろしていたら、ナンバー2がグッと肩を組んできた。そして耳元で
「お前、度胸あるなあ」
と囁いた。
「どういう意味かハッキリはわからないんですけど、たぶん
『俺の顔を潰しやがって、おい』
と言いたかったのかもしれません」
お骨上げが終わった後に、彼らは果たしてカタキをうちに行ったのだろうか?
気になるところである。
(編集部)
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