製薬会社の闇…日本三大薬害事件の一つ「サリドマイド事件」 の教訓は現在に生かされたのか?

Romeo ScheideggerによるPixabayからの画像

 薬害とは、薬の有害性の情報を軽視した結果に引き起こされる”人災的な”健康被害のことを言う。日本国内では60年~ 70年代にかけて、抗マラリア剤「クロロキン」や整腸剤「 スモン」の薬害事件が発生しているが、 これらを合わせ日本三大薬害事件と呼ばれ、 最も有名なものとなったのが「サリドマイド」による薬害事件( 通称「サリドマイド事件」)である。

 サリドマイドは、1957年10月にドイツのケミー・ グリュネンタール社から睡眠薬「コンテルガン」として発売され、その後沈静・睡眠薬として世界40か国以上で販売された。日本では、1958年1月に大日本製薬(現在の大日本住友製薬) から睡眠薬「イソミン」として販売され、1960年には胃腸薬「 プロバンM」にサリドマイドが配合された。妊婦がつわりを抑える為に胃腸薬が服用されることはままあり、 プロバンMもそうした用途で妊婦が服用することとなった。

 だが、サリドマイドは、妊娠中に服用すると胎児に奇形が生じてしまう催奇形性という副作 用を有しており、なんとこの事実が発売後に発覚したのだ。日本では、「妊婦も安心して飲める薬」 として進められ全国の薬屋で販売されたが、その結果、日本だけでも300人を超える胎児の奇形被害が確認され大問題へ と発展した。なお、この人数は生存確認数であり、死産を加えると1, 000人を超える胎児への被害があったとも言われている。

 ドイツでは、発売から数年後に多くの奇形児が誕生したことでサリドマイドの副作用が発覚し、1961年11月には販売中止となった。ところが、そのようなリスクが明らかになったにも関わらず日本では販売が続けられ、1962年5月にサリドマイド製剤の出荷中止、同年9月にようやく全面回収が決定された。この出荷中止や回収への対応の遅れが日本国内におけるサリドマイ ド薬害拡大の原因になったと考えられている。

 のち1964年、被害者家族らによって厚生省と大日本製薬を相手取った民事裁判が 行なわれたが、 国と製薬会社は薬と障害の因果関係を認めなかったことから裁判が 長期化し、和解が成立したのは10年後の1974年であった。因みに、アメリカでは販売直前に催奇形性が確認されたことで販売が見送られたという。

 この事件はさらに、被害を受けた家庭の多くに困難をもたらした。奇形児を生んだことによる育児放棄や周囲からの偏見、それによって離婚にまで追いつめられるほどに家庭崩壊した家族もあったという。また、養護学校への就学も断られる例もあり、就学後にいじめを受けることが多かったと言われている。現在、被害を受けた人々が中年期・ 老年期を迎え二次的な健康障害を引き起こしている。

 この事件の一つの象徴として1981年、映画監督松山善三によって製作された映画『典子は、今』がある。本作は、このサリドマイド薬害によって両腕の無い状態で生まれた白井のり 子(辻典子)の生い立ちを描いたドキュメンタリー風映画であり、周囲からの偏見や支える人々、そして両足を使って書道をしたり、料理をしたりする彼女の姿を追ったことで話題となった。彼女は映画の中の”自分” が独り歩きすることに悩み講演や執筆依頼を断り続けていたが、のちに自身を客観視できるようになったと感じ、2005年に初めて講演を行なった。のちに著書も出版し、 2007年には『典子は、今』 が初めてDVD化されることとなった。

 今、 このサリドマイドの教訓が生かされているかについては疑問視もさ れている。2018年に販売されたインフルエンザ新薬「ゾフルーザ」は、当初「画期的な薬」であると過剰に宣伝され一躍ニュースとなった。しかし、 数ヶ月後に「耐性ができるかもしれない」という情報が出回り、 その後に実は発売前からその情報がすでにわかっていたという事実 が発覚したのだ。 ほとんどの医療関係者はこの事実を知らなかったと言われており、 一説には利益を優先したために発売を急いだ結果であると言われて いる。薬害の被害が起こらないよう、今後、 サリドマイド事件の教訓が生かされることを強く願うばかりである 。

【参考記事・文献】
サリドマイ
サリドマイド事件の概要|日本とドイツの和解/原因/被害者
三大薬害事件の1つ「サリドマイド事件」から学ぶ教訓とは?

【文 黒蠍けいすけ】

【本記事は「ミステリーニュースステーション・ATLAS(アトラス)」からの提供です】

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